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第5章 参照点と保有効果 ・ レッスン5-2保有効果とは。自分の物を高く感じるのはなぜか
約5分 ・ 公開日 2026-10-06
このレッスンの問い
もらったばかりのマグカップを「いくらなら売りますか」と聞かれた人と、「いくらなら買いますか」と聞かれた人。答える金額はどちらが高いと思いますか?先に予想してから読み進めましょう。
読む前に、答えを少しだけ予想してみてください。当たっていなくても大丈夫です。
前のレッスンの復習(1問)
本文に入る前に、前のレッスンを思い出してみましょう。
Q1. 同じ「時給1100円のアルバイト」でも、前の職場の時給が1300円だった人は損をしたように感じやすいのはなぜですか。
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正解: 1. 前の時給が参照点(ものさし)になり、それより低いと損に感じるから
損か得かは、絶対額ではなく参照点と比べて決まるのでした。前の時給という基準が変わると、同じ1100円でも受け止め方が変わります。
01自分の物になると、価値が上がって見える
人は、ある物が自分の物になっただけで、その物を高く評価しやすくなります。
同じ物でも、手放すときに求める金額は、手に入れるときに払う金額より高くなりがちです。この心の傾向を保有効果と呼びます。名づけたのは経済学者のセイラーです(1980年)。
買うなら払ってよい最高額を支払意思額、売るなら受け取りたい最低額を受取意思額と呼びます。伝統的な経済学では、この2つはほぼ同じになるはずだと考えられてきました。
身近な例で考えてみましょう。押し入れの使わない家電を地域のリユースに出そうとして、つい高い値をつけて売れ残る。手放せない物が増えると、まだ使える物が家に眠ったままになります。
02マグカップの実験:売り手の希望額は買い手の約2倍
カーネマン、ナッチ、セイラーの1990年の実験では、マグカップの売り手が求めた金額は、買い手が払う金額の約2倍になりました。
実験1では、コーネル大学の学生44人の半分に、大学の売店で6ドルのマグカップを配りました。そのうえで、持っている人は売り手、持っていない人は買い手として取引をしました。
持ち主は座席で1人おきに決めたので、マグカップの好みは両方の組で同じくらいのはずです。ならば約半数のマグカップが持ち主を変えると予想されますが、実際の取引はずっと少なくなりました。
売り手の希望額の中央値は5.25ドル、買い手は2.25〜2.75ドルでした。取引を4回くり返しても、差は縮みませんでした。別の実験では、マグカップかお金かを選ぶ人の評価も、買い手に近い値でした。
03手放すのが損に感じるから。慣れた人では弱い
保有効果は、手放すことを損失と感じる損失回避で説明されますが、取引に慣れた人では弱いという研究もあります。
選ぶ人と売り手は、どちらも「マグカップかお金か」の同じ選択をしています。違うのは、すでに手にしているかどうかだけです。売り手にとっては手放すことが損になり、重く感じられるのです。
これは第4章で学んだ損失回避とつながります。1991年の論文で3人は、保有効果を損失回避の表れの1つとして整理しました。
一方、リストは2003年、スポーツカードの展示会で、もらった記念品を別の品と交換するかを調べました。取引の多い業者は4割以上が交換し、一般の人は2〜2.5割、なかでも取引の少ない人は6.8%でした。別の実験も合わせて経験が保有効果を弱めると報告していますが、どこまで当てはまるかはまだはっきりしていません。
| 実験(参加者) | 売り手(持っている人) | 選ぶ人(カップかお金か) | 買い手(持っていない人) |
|---|---|---|---|
| 実験1(コーネル大学44人) | 5.25ドル | なし | 2.25〜2.75ドル |
| 実験6(サイモン・フレーザー大学77人) | 7.12ドル | 3.12ドル | 2.87ドル |
| 実験7(ブリティッシュ・コロンビア大学117人) | 7.00ドル | 3.50ドル | 2.00ドル |
あなたの場合は?
家に、使っていないのに手放せない物はありますか?「今これを持っていなかったら、いくらなら買うか」と考えてみると、どう見えるでしょうか。
答えを書く必要はありません。少し思い浮かべるだけで、記憶に残りやすくなります。
覚えるのはこの3つ
- 保有効果とは、自分の物になっただけで、その物を高く評価する傾向
- マグカップの実験(1990年)では、売り手の希望額は買い手の支払い額の約2倍だった
- 手放すことを損と感じる損失回避で説明されるが、取引に慣れた人では弱いという研究もある
TERMSこのレッスンの用語
自分の物になっただけで、その物を高く評価する心の傾向。手放すときに求める額が、手に入れるときに払う額より高くなる。
ある物を手に入れるために、払ってもよいと考える最高の金額。
持っている物を手放すかわりに、受け取りたいと考える最低の金額。
LESSON 5-2 の確認
確認問題(全3問)
本文を見ずに答えてみましょう。思い出そうとすることが、いちばんの復習になります。
Q1. Kahneman, Knetsch & Thaler(1990)の実験1で、マグカップの売り手が求めた金額(中央値)は、買い手が払う金額と比べてどうでしたか。
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正解: 2. 約2倍だった
売り手は5.25ドル、買い手は2.25〜2.75ドルで、約2倍でした。取引をくり返しても差は縮みませんでした。
Q2. 実験6・7で、「マグカップかお金か」を選ぶ人の評価は、どちらに近かったですか。
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正解: 2. 買い手に近かった
惜しい人もいたかもしれません。選ぶ人の評価は買い手に近い値でした。違いを生んだのは、すでに手にしているかどうかでした。
Q3. 引っ越しで家具を手放すことになり、地域のリユース掲示板に出しました。保有効果から考えて、気をつけるとよいことはどれですか。
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正解: 1. 自分の物なので、相場より高い値をつけたくなりやすい
ここがポイントです。持ち主は手放す損を重く感じ、高い値をつけがちです。「持っていなかったら、いくらで買うか」と考えると、売れる値に近づけます。取引に慣れた人ではむしろ弱いという研究がありました。
出典(3件)
- Kahneman, D., Knetsch, J. L., & Thaler, R. H. (1990). Experimental tests of the endowment effect and the Coase theorem. Journal of Political Economy, 98(6), 1325-1348.
- Kahneman, D., Knetsch, J. L., & Thaler, R. H. (1991). Anomalies: The endowment effect, loss aversion, and status quo bias. Journal of Economic Perspectives, 5(1), 193-206.
- List, J. A. (2003). Does market experience eliminate market anomalies? Quarterly Journal of Economics, 118(1), 41-71.