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第5章 参照点と保有効果 ・ レッスン5-3

現状維持バイアスとは?変えないほうを選びやすいのはなぜか

約5分 ・ 公開日 2026-10-06

このレッスンの問い

同じ4つの投資先から選ぶとき、「そのうち1つはすでに持っている」と言われたら、選び方は変わると思いますか?

読む前に、答えを少しだけ予想してみてください。当たっていなくても大丈夫です。

前のレッスンの復習(1問)

本文に入る前に、前のレッスンを思い出してみましょう。

レッスン5-2から

Q1. 保有効果を調べたマグカップの実験で、マグカップを持っている売り手が付けた値段は、買い手が払うと言った値段と比べてどうでしたか。

答えを見る

正解: 1. 買い手の値段の約2倍だった
ここがポイントです。同じマグカップでも、自分の物になっただけで手放すときの値段が約2倍に上がりました。これが保有効果でした。

01今のままの選択肢が選ばれやすい

同じ選択肢でも「今のまま」の位置に置かれるだけで、選ばれやすくなります。

1988年、サミュエルソンとゼックハウザーは486人の学生に、選択の問題をいくつも答えてもらいました。たとえば「大おじから遺産を受け継いだ。どう投資するか」という問題です。

ある人には、4つの投資先をすべて新しい候補として示しました。別の人には「遺産の多くはすでに会社Aの株になっている」と伝えました。中身は同じでも、今のままになっている選択肢ほど多く選ばれました。

今のままを選びやすく、変えることに抵抗を感じる。この心の傾向を現状維持バイアスと呼びます。選択肢が多いほど、この偏りは強くなりました。

02変えて失うものが大きく見える

今の状態を基準にすると、変えたときの損が得より大きく見えるため、変えないほうを選びやすくなります。

第4章で学んだ損失回避を思い出しましょう。人は同じ大きさの得と損なら、損のほうを重く感じるのでした。

今の状態が参照点になると、乗り換えて得られるものは「得」、手放すものは「損」として見えます。損が重く感じられるので、変えない理由のほうが強くなります。カーネマンらは1991年、現状維持バイアスを損失回避から自然に出てくる結果だと説明しました。

ただし、説明はそれだけではありません。原典の著者たちは、得と損の形で示していない車の色選びなどでも偏りが出たと報告しました。乗り換えの手間や、変えて失敗したときの後悔なども理由に挙げています。

03見直さないまま続けてしまう

保険や年金、料金プランのように毎年選び直せるものでも、多くの人は同じ選択を続けます。

原典は、ハーバード大学の職員の健康保険も調べました。1980年に最も多く選ばれていたプランは、1986年に新しく選んだ人では9.8%でしたが、それ以外の加入者では31.0%でした。以前の調査でも、プランを変える人は1年に約3%しかいませんでした。

大学教員などの年金でも、1986年の調査で、株と債券の配分を一度でも変えた人は28%だけでした。配分は毎年無料で変えられたのにです。

身近な例では、電気やスマホの料金プランがあります。安いプランがあっても、調べて乗り換える手間を思うと、そのままにしがちです。最初から決まっている設定(デフォルト)の力は、第10章で詳しく学びます。

年齢1985・1986年に初めて選んだ人1979年以前から加入している人
21〜31歳6.4%27.4%
32〜41歳12.4%33.0%
42〜51歳22.7%43.1%
52〜61歳24.7%50.0%
ハーバード大学の健康保険で、1980年に最も多かったプラン(Blue Cross/Blue Shield)を選んでいる人の割合(1986年時点)。新しく加入した人ほど選ばず、古くからの加入者は選び続けていた(Samuelson & Zeckhauser 1988 をもとに作成)

あなたの場合は?

何年も見直していない契約やプランはありますか?もし今日はじめて選ぶとしたら、同じものを選ぶでしょうか。

答えを書く必要はありません。少し思い浮かべるだけで、記憶に残りやすくなります。

覚えるのはこの3つ

  1. 現状維持バイアスとは、今のままを選びやすく、変えることに抵抗を感じる心の傾向
  2. 今の状態を基準にすると、変えて失うものが得るものより大きく見える(損失回避とつながる)
  3. 保険・年金・料金プランなどを、見直さないまま続けてしまう原因になる

TERMSこのレッスンの用語

現状維持バイアスStatus quo bias

今のままの選択肢を選びやすく、変えることに抵抗を感じる心の傾向。

LESSON 5-3 の確認

確認問題(全3問)

本文を見ずに答えてみましょう。思い出そうとすることが、いちばんの復習になります。

Q1. サミュエルソンとゼックハウザーの実験で、現状維持バイアスがあると言えるのはどの結果ですか。

答えを見る

正解: 1. 同じ選択肢でも、今のままの位置に置かれると多く選ばれた
中身が同じでも「今のまま」として示されると選ばれやすくなりました。示し方だけで選び方が変わったことがポイントです。

Q2. 現状維持バイアスと損失回避のつながりとして、正しいものはどれですか。

答えを見る

正解: 1. 今の状態を基準にすると、変えて手放すものが損として重く見える
惜しい選択肢は3つめです。損失回避は大きな理由ですが、原典は乗り換えの手間や後悔を避けたい気持ちなども理由に挙げていました。

日常の場面で考える

Q3. Aさんは10年前に契約したスマホの料金プランを、今も一度も見直していません。現状維持バイアスに気づいて判断するための問いとして、最も適切なものはどれですか。

答えを見る

正解: 1. 今日はじめて選ぶとしたら、このプランを選ぶだろうか
今のままを基準にせず、まっさらな状態から選び直すつもりで比べると、偏りに気づきやすくなります。残りの2つは、今のままに引き寄せられた考え方です。

レッスン5-3はここまでです

迷った問題は、その見出しの本文を読み直してから次に進みましょう。間違えた問題は復習ページに自動で入ります。

第5章 参照点と保有効果 のレッスン一覧
  1. 5-1参照点
  2. 5-2保有効果
  3. 5-3現状維持バイアス
  4. 5-4参照価格

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出典(2件)
  1. Samuelson, W., & Zeckhauser, R. (1988). Status quo bias in decision making. Journal of Risk and Uncertainty, 1(1), 7-59.
  2. Kahneman, D., Knetsch, J. L., & Thaler, R. H. (1991). Anomalies: The endowment effect, loss aversion, and status quo bias. Journal of Economic Perspectives, 5(1), 193-206.