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第3章 ヒューリスティクスとバイアス ・ レッスン3-3利用可能性ヒューリスティックとは?思い出しやすさで多さを判断する
約5分 ・ 公開日 2026-10-06
このレッスンの問い
日本で1年間に亡くなる人は、交通事故と、転倒・転落ではどちらが多いと思いますか?答えを決めてから読み進めましょう。
読む前に、答えを少しだけ予想してみてください。当たっていなくても大丈夫です。
前のレッスンの復習(1問)
本文に入る前に、前のレッスンを思い出してみましょう。
Q1. 「銀行員」より「銀行員で、地域の活動もしている人」のほうが起こりやすいと感じてしまう誤りを、何と呼びましたか。
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正解: 1. 連言錯誤
条件を足すほど起こる確率は下がるのに、「らしさ」が増すと起こりやすく感じてしまいます。リンダ問題で確かめた誤りです。
01思い出しやすいほど「多い」と感じる
人は、例がすぐ頭に浮かぶものほど、数が多い・起こりやすいと判断します。
ある出来事がどれくらい多いかを、例の思い出しやすさで判断する近道があります。これを利用可能性ヒューリスティックと呼びます。
トベルスキーとカーネマンは1973年、英語の文章でKが1文字目に来る語と3文字目に来る語のどちらが多いかを尋ねました。Kで始まる語のほうが、ずっと思い浮かべやすいですよね。
152人のうち105人が、調べた5つの文字の多くで「1文字目のほうが多い」と答えました。実際には5文字とも3文字目のほうが多く、Kは約2倍です。思い出しやすさが、多さの感覚をゆがめたのです。
02目立つ死因は多めに見積もられる
派手で報道されやすい死因は多めに、静かに起こる死因は少なめに見積もられます。
リキテンスタインらは1978年、アメリカの人に死因の多さを比べてもらいました。当時の統計では、脳卒中は事故全体より85%多い死因でした。それでも脳卒中を選んだのは、学生の20%ほどでした。
事故による死亡は、病気による死亡と同じくらいと判断されました。実際には病気が約15倍です。新聞を調べると、他殺は自殺より23%少ないのに、報じられた回数は9.6倍でした。
惜しいのは、意見がでたらめなのではなく、ずれ方がそろっていた点です。目に触れる情報の偏りが、そのまま判断の偏りになっていました。
03対策は、記憶ではなく統計を見ること
思い出しやすさは注意しても直りにくいので、判断の前に統計を確かめるのがいちばん確かです。
1978年の研究では、偏りの原因を説明して気をつけるよう伝えても、答えは良くなりませんでした。気合いではなく、外の数字に頼ることがポイントです。
冒頭の問いの答えです。厚生労働省の人口動態統計によると、2023年に交通事故で亡くなった人は3,573人でした。転倒・転落・墜落は11,784人で、3倍以上です。
地域の安全対策を話し合う場面を考えてみましょう。最近の目立つ事件だけで優先順位を決めると、数の多い身近な事故が後回しになります。まず公的な統計を開く習慣が、限られた予算や時間を生かします。
| 死因 | 2023年の死亡数 | 交通事故と比べると |
|---|---|---|
| 交通事故 | 3,573人 | 1倍(基準) |
| 転倒・転落・墜落 | 11,784人 | 約3.3倍 |
| 不慮の溺死及び溺水 | 8,993人 | 約2.5倍 |
| 不慮の窒息 | 8,644人 | 約2.4倍 |
| 他殺 | 229人 | 約0.06倍 |
| 自殺 | 21,037人 | 約5.9倍 |
あなたの場合は?
最近「増えている」と感じた事件や事故はありますか?その感覚は、ニュースで見た回数から来ていないでしょうか。
答えを書く必要はありません。少し思い浮かべるだけで、記憶に残りやすくなります。
覚えるのはこの3つ
- 思い出しやすいものほど、多い・起こりやすいと感じる(利用可能性ヒューリスティック)
- 派手で報道されやすい死因は多めに、静かに起こる死因は少なめに見積もられる(Lichtenstein ほか 1978)
- 注意するだけでは直りにくい。判断の前に、記憶ではなく統計を確かめる
TERMSこのレッスンの用語
例の思い出しやすさや思い浮かべやすさで、出来事の多さや起こりやすさを判断する近道。
LESSON 3-3 の確認
確認問題(全3問)
本文を見ずに答えてみましょう。思い出そうとすることが、いちばんの復習になります。
Q1. トベルスキーとカーネマン(1973)の、文字の位置を尋ねた実験の結果として正しいものはどれですか。
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正解: 1. 多くの人が「1文字目のほうが多い」と答えたが、実際は5文字とも3文字目のほうが多かった
1文字目で始まる語のほうが思い浮かべやすいため、多いと感じました。実際の多さとは逆の判断です。
Q2. リキテンスタインら(1978)の研究で見られた判断の偏りとして、正しいものはどれですか。
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正解: 2. 事故による死亡は病気による死亡と同じくらいと判断されたが、実際は病気が約15倍だった
目立つ事故は多めに、静かな病気は少なめに見積もられました。気をつけるよう伝えても、答えは良くなりませんでした。
Q3. 町内会で安全対策の優先順位を決めることになりました。最近ニュースで見た事件の話題で盛り上がっています。利用可能性ヒューリスティックを踏まえると、まずすべきことはどれですか。
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正解: 2. 地域や国の統計で、実際に多い事故や被害を確かめる
ここがポイントです。記憶を集めても、目立つ出来事に偏ったままです。統計を見れば、数の多い身近な事故にも目が向きます。
出典(3件)
- Tversky, A., & Kahneman, D. (1973). Availability: A heuristic for judging frequency and probability. Cognitive Psychology, 5(2), 207-232.
- Lichtenstein, S., Slovic, P., Fischhoff, B., Layman, M., & Combs, B. (1978). Judged frequency of lethal events. Journal of Experimental Psychology: Human Learning and Memory, 4(6), 551-578.(オレゴン大学リポジトリ)
- 厚生労働省「令和5年(2023)人口動態統計(確定数)の概況」第7表 死因簡単分類別にみた性別死亡数・死亡率