HOME / ゼロから学ぶ行動経済学 / 講座 / 第3章 ヒューリスティクスとバイアス / ヒューリスティクス

第3章 ヒューリスティクスとバイアス ・ レッスン3-1

ヒューリスティクスとは。判断の近道とその代償

約5分 ・ 公開日 2026-10-06

このレッスンの問い

遠くの山までの距離を、あなたは何を手がかりに見積もっていますか?読む前に、思いつく手がかりを1つ予想してみてください。

読む前に、答えを少しだけ予想してみてください。当たっていなくても大丈夫です。

01ヒューリスティクスは判断の近道

ヒューリスティクスとは、難しい判断を、すぐ答えられる簡単な手がかりで代わりにすませる頭の近道です。

確率や数量を正確に計算するのは大変です。そこで人は、すぐに使える手がかりで判断をすませます。この頭の近道をヒューリスティクスと呼びます。

カーネマンは2002年のノーベル賞講演で、近道の働きをこう説明しました。答えにくい問いを、知らないうちに答えやすい問いに置き換えて答えている、というものです。これを属性の置き換えと呼びます。

たとえば「バスケットボールの大会で、チームAがチームBに勝つ確率は?」と聞かれたとします。すると確率を考える代わりに、どちらが強そうかという印象で答えてしまう、という例が挙げられています。

02近道は「予測できるずれ」を生む

近道はたいてい役に立ちますが、ときに重大で、決まった向きのずれ(バイアス)を生みます。

トベルスキーとカーネマンは1974年に科学誌サイエンスで、こう述べました。人は限られた数の近道に頼り、それはたいてい役に立つが、ときに重大で系統的な誤りを生む、と。

論文の例は距離の見積もりで、講演では山の例として紹介されています。輪郭がぼやけて見えるものほど、遠くにあると感じます。この手がかりはふだん正しいのですが、霧の日は距離を長めに、よく晴れた日は短めに見積もってしまいます。

ここがポイントで、ずれ方の向きが決まっているので、どちらにずれるかを前もって予測して備えられます。このずれを認知バイアスと呼びます。

03近道が悪いのではなく、外れる場面を知る

近道そのものは悪者ではなく、どんな場面で外れやすいかを知っておくことが大切です。

1974年の論文では、代表性、利用可能性、アンカリングという3つの近道が紹介されました。中身は、この章の次のレッスンから1つずつ学びます。

一方で心理学者のギーゲレンツァーらは、近道の良い面を強調します。2011年の総説では、予測しにくい場面やデータが少ない場面で、情報の一部を無視するほうが正確な判断になる場合があると述べています。

近道を「誤りのもと」と見るか「賢い道具」と見るかは、今も議論が続いています。ただ、どちらの見方でも共通するのは、近道が合う場面と合わない場面がある、ということです。

本当に答えたい問い代わりに答えている問いくわしく学ぶレッスン
あの山までどれくらい遠い?輪郭がどれくらいぼやけて見えるかこのレッスン
それが起きる確率は?いかにもそれらしいか(代表性)3-2
どれくらい多く起きている?例をすぐ思い出せるか(利用可能性)3-3
いくらくらいが妥当?最初に見た数字からどれだけ動かすか(アンカリング)3-4
本当の問いを、答えやすい問いに置き換える例(Tversky & Kahneman 1974、Kahneman 2002 ノーベル賞講演をもとに作成)

あなたの場合は?

最近、よく考えずに「なんとなく」で決めたことを1つ思い出してください。そのとき、本当の問いの代わりに、どんな答えやすい問いに答えていたでしょうか?

答えを書く必要はありません。少し思い浮かべるだけで、記憶に残りやすくなります。

覚えるのはこの3つ

  1. ヒューリスティクスは、難しい判断を簡単な手がかりですませる頭の近道で、たいてい役に立つ
  2. 近道はときに、決まった向きのずれ(認知バイアス)を生む(トベルスキーとカーネマン 1974)
  3. 近道そのものが悪いのではなく、外れやすい場面を知っておくことが大切

TERMSこのレッスンの用語

ヒューリスティクスHeuristics

難しい判断を、すぐ使える簡単な手がかりで代わりにすませる頭の近道。

認知バイアスCognitive bias

判断が、決まった向きにずれる傾向。近道の使い方から生まれることが多い。

属性の置き換えAttribute substitution

答えにくい問いを、知らないうちに関係のある答えやすい問いに置き換えて答えること。

LESSON 3-1 の確認

確認問題(全3問)

本文を見ずに答えてみましょう。思い出そうとすることが、いちばんの復習になります。

Q1. 1974年の論文で、トベルスキーとカーネマンはヒューリスティクスをどう評価しましたか。

答えを見る

正解: 1. たいてい役に立つが、ときに重大で系統的な誤りを生む
ここがポイントで、近道は「たいてい役に立つ」とされています。そのうえで、決まった向きのずれも生むと指摘しました。

Q2. 輪郭のぼやけ方で山までの距離を判断すると、霧の日にはどうなりやすいですか。

答えを見る

正解: 2. 距離を長めに見積もる
惜しい人は、霧で輪郭がぼやけることを思い出しましょう。ぼやけた山は遠いと感じるので、霧の日は距離を長めに見積もります。

日常の場面で考える

Q3. 職場で「この企画は成功する確率が高いか」と聞かれ、つい「企画書の見た目が立派か」で答えてしまいました。これは何の例ですか。

答えを見る

正解: 2. 答えにくい問いを答えやすい問いに置き換える、属性の置き換え
成功の確率という答えにくい問いを、見た目の立派さという答えやすい問いに置き換えています。本人は置き換えに気づいていないのが特徴です。

レッスン3-1はここまでです

迷った問題は、その見出しの本文を読み直してから次に進みましょう。間違えた問題は復習ページに自動で入ります。

第3章 ヒューリスティクスとバイアス のレッスン一覧
  1. 3-1ヒューリスティクス
  2. 3-2代表性ヒューリスティック
  3. 3-3利用可能性ヒューリスティック
  4. 3-4アンカリング
  5. 3-5少数の法則

講座の目次(全14章)へ

出典(3件)
  1. Tversky, A., & Kahneman, D. (1974). Judgment under Uncertainty: Heuristics and Biases. Science, 185(4157), 1124-1131.
  2. NobelPrize.org「Daniel Kahneman - Prize Lecture: Maps of Bounded Rationality」(2002年12月8日)
  3. Gigerenzer, G., & Gaissmaier, W. (2011). Heuristic Decision Making. Annual Review of Psychology, 62, 451-482.