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第7章 時間割引と現在バイアス ・ レッスン7-3

計画する自分と実行する自分。プランナー・ドーアー・モデル

約5分 ・ 公開日 2026-10-06

このレッスンの問い

夜に「明日からがんばろう」と決めた自分と、朝それを破る自分。同じ人なのに、なぜ食い違うのでしょうか。読む前に予想してみてください。

読む前に、答えを少しだけ予想してみてください。当たっていなくても大丈夫です。

前のレッスンの復習(1問)

本文に入る前に、前のレッスンを思い出してみましょう。

レッスン7-2から

Q1. 1か月先の予定では「その日は運動する」を選んでいたのに、当日になると「今日は休む」を選んでしまう。前のレッスンで、この現象を何と呼びましたか。

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正解: 1. 選好の逆転
ここがポイントです。遠い先どうしでは我慢を選ぶのに、その日が来ると目先を選ぶ。このように好みの順番が入れかわることを選好の逆転と呼びました。

011人の中にいる2つの自分

プランナー・ドーアー・モデルとは、1人の中に、長い目で考える自分と、目先の満足で動く自分が同時にいると考えるモデルです。

夜に「明日から職場にマイボトルを持っていこう」と決めます。ところが朝は忙しく、ついコンビニでペットボトルを買ってしまう。どちらも同じあなたです。

セイラーとシェフリンは1981年、この食い違いを2つの自分で説明しました。一生の満足を考える「計画する自分」と、今の満足だけを気にする「実行する自分」です。これをプランナー・ドーアー・モデルと呼びます。

以前から、今日の自分と明日の自分という、時間のずれた自分どうしの対立として考える説明はありました。このモデルの新しさは、2つの自分が同じ瞬間に同時にいて、綱引きをしていると考えた点です。

02抑えるには努力がいる

計画する自分は、意志の力でがまんさせるか、ルールで選べる幅をせばめますが、どちらも思いどおりにはいきません。

1つめは意志の力です。その場でぐっとこらえる方法ですが、気持ちの負担がかかります。がまんする力には限りがあるというこの見方を、限られた意志力と呼びます。

2つめは、自分で決めたルールです。「給料が入ったら先に貯金する」のように、実行する自分が選べる幅をせばめます。第6章の心の予算も、こうした工夫の一つと考えられます。

ただし、ルールも完ぺきには守れません。また、計画する自分がどれだけうまく抑えられるかは、人によって違うとモデルは考えます。

03意志の弱さだけの問題ではない

計画どおりにできないのは、意志が弱いからだけではなく、がまんに努力がいるという仕組みの問題として考えられます。

がまんに努力がいるなら、できなかった人を「だらしない」と責めても解決しにくいですね。がまんに頼る場面を減らす仕組みを考えるほうが、役に立ちそうです。

実際このモデルは、強制加入の年金があると、がまんの負担なしに貯蓄が生まれ、全体の貯蓄が増えると予測しました。この予測は、のちの研究で支持されています。

なお、第2章のシステム1・2は、速い直感と遅い熟考という考え方の速さの区別でした。こちらは長い目と目先という時間の見方の区別で、比べられることはあっても別のモデルです。

計画する自分(プランナー)実行する自分(ドーアー)
見ている時間一生・長い目今だけ
大事にするもの長い目で見た満足今この瞬間の満足
マイボトルの例前の晩に「明日から持っていく」と決める朝の忙しさで、ついペットボトルを買う
相手との関係意志の力やルールで抑えようとする(努力がいる)抑えられる側。ルールの穴から目先に流れやすい
計画する自分と実行する自分のちがい(2017年ノーベル経済学賞の公式解説をもとに作成)

あなたの場合は?

最近、前の日に決めたのに当日やめてしまったことはありますか?そのとき、がまんに頼りすぎていなかったか振り返ってみましょう。

答えを書く必要はありません。少し思い浮かべるだけで、記憶に残りやすくなります。

覚えるのはこの3つ

  1. プランナー・ドーアー・モデルは、1人の中に長い目で考える「計画する自分」と目先で動く「実行する自分」が同時にいると考える(セイラーとシェフリン、1981年)
  2. 計画する自分は意志の力やルールで実行する自分を抑えようとするが、意志の力には負担がかかり、ルールも完ぺきには守れない
  3. 計画どおりにできないのは意志の弱さだけでなく、がまんに努力がいる仕組みの問題として考えられる

TERMSこのレッスンの用語

プランナー・ドーアー・モデルPlanner-doer model

人の中に、一生の満足を考える計画する自分と、今の満足だけを気にする実行する自分が同時にいると考える、自制心のモデル。

限られた意志力Bounded willpower

人のがまんする力には限りがあり、決めた計画をいつも実行できるわけではないこと。

LESSON 7-3 の確認

確認問題(全3問)

本文を見ずに答えてみましょう。思い出そうとすることが、いちばんの復習になります。

Q1. プランナー・ドーアー・モデルの説明として正しいものはどれですか。

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正解: 1. 1人の中に、長い目で考える自分と目先の満足で動く自分が同時にいると考える
2つの自分が同じ瞬間に同時にいる点がポイントです。速い直感と遅い熟考は第2章のシステム1・2で、別のモデルです。

Q2. 計画する自分が実行する自分を抑える方法について、本文の内容と合うものはどれですか。

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正解: 2. 意志の力やルールで抑えるが、意志の力には負担がかかり、ルールも完ぺきには守れない
惜しい選択肢もありますが、このモデルではがまんはただではできないと考えます。ルールは役に立つものの、完ぺきではありません。

日常の場面で考える

Q3. 同僚が「毎晩、明日こそ早く寝ると決めるのに夜ふかししてしまう。自分は意志が弱い」と落ち込んでいます。このモデルに沿った考え方はどれですか。

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正解: 3. がまんにはもともと努力がいるので、がまんに頼る場面を減らす仕組みを考える
ここがポイントです。計画どおりにできないのは意志の弱さだけでなく、仕組みの問題として考えられます。具体的な工夫は次のレッスンで学びます。

レッスン7-3はここまでです

迷った問題は、その見出しの本文を読み直してから次に進みましょう。間違えた問題は復習ページに自動で入ります。

第7章 時間割引と現在バイアス のレッスン一覧
  1. 7-1時間割引
  2. 7-2現在バイアス
  3. 7-3プランナー・ドーアー・モデル
  4. 7-4コミットメント

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出典(4件)
  1. Thaler, R. H. & Shefrin, H. M. (1981). An Economic Theory of Self-Control. Journal of Political Economy, 89(2), 392-406.
  2. NobelPrize.org「Scientific Background: Richard H. Thaler: Integrating Economics with Psychology」(2017年 経済学賞の学術解説。3.2 The planner-doer model)
  3. NobelPrize.org「Popular information: Easy money or a golden pension? Integrating economics and psychology」(2017年 経済学賞の解説)
  4. NobelPrize.org「The Prize in Economic Sciences 2017 - Press release」