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第7章 時間割引と現在バイアス ・ レッスン7-2

現在バイアスとは?「明日からやる」が続く理由

約5分 ・ 公開日 2026-10-06

このレッスンの問い

「ダイエットは明日から」。そう決めた明日が来たとき、あなたは本当に始められそうですか?読む前に予想してみてください。

読む前に、答えを少しだけ予想してみてください。当たっていなくても大丈夫です。

前のレッスンの復習(1問)

本文に入る前に、前のレッスンを思い出してみましょう。

レッスン7-1から

Q1. 前のレッスンで学んだ「時間割引」の説明として正しいものはどれですか。

答えを見る

正解: 1. 同じ金額でも、受け取りが先になるほど価値を小さく感じること
ここがポイントです。将来のお金は、今のお金より小さく感じられます。割引の強さには、人や場面でかなり差がありました。

01「今」と「少し先」の差は特別に大きい

人は、「今」と「少し先」の差を、遠い将来どうしの同じ差よりずっと大きく感じます。

セイラーは1981年、今もらえる15ドルと同じ価値になる金額を、先の時期ごとに答えてもらいました。答えの中央値は、1か月後なら20ドル、1年後なら50ドル、10年後なら100ドルでした。

1年あたりに直すと、1か月先の割引はとても大きく、10年先ではずっと小さくなります。つまり、目の前の「待つ」ほど重く感じるのです。

このように「今」をとくに重く見る傾向を、現在バイアスと呼びます。割引の強さが先に行くほど弱まる形は、双曲割引とも呼ばれます。

02予定では我慢、当日は目先

「今」が特別に重いので、先の予定では我慢を選んだ人が、その日が来ると目先を選ぶことがあります。

たとえば、30日後の100ドルより31日後の110ドルを選ぶ人が、今日の100ドルと明日の110ドルなら今日を選ぶことがあります。1日の差は同じなのに、選ぶものが入れ替わります。

これを選好の逆転と呼びます。30日たてば、遠かった選択も「今日か明日か」に変わります。そのため、先に立てた計画が当日に覆りやすくなるのです。

ただ、多くの実験は、同じ時点で2つの質問を比べたものです。同じ人が30日後に本当に考えを変えるのかは、まだはっきりしていない点があります。

03ジムの会費と先延ばし

現在バイアスは、払ったのに通わない、やるべきことを先延ばしする、貯蓄が足りないといった行動につながります。

アメリカのスポーツクラブ3施設、会員7752人の3年分の記録を調べた研究があります(2006年)。月70ドルを超える定額会員は、平均で月4.3回しか通っていませんでした。

1回あたりにすると17ドルを超え、10回券なら1回10ドルで済んだはずです。著者たちは、将来の自分の自制心を高く見積もりすぎることを、有力な説明に挙げています。

身近な例では、地域の防災備蓄を「来月そろえよう」と延ばし続けることがあります。オドノヒューとラビンは、自分の弱さに気づいていない人ほど、手間が先に来る作業を先延ばししやすいと理論で示しました。

受け取る時期同じ価値だと感じる金額1年あたりに直した割引の大きさ
今15ドル-
1か月後20ドル約345%
1年後50ドル約120%
10年後100ドル約19%
今の15ドルと同じ価値だと感じる金額(Thaler 1981 の中央値。Frederick, Loewenstein & O'Donoghue 2002 の紹介による)

あなたの場合は?

「来週からやる」と決めたまま、まだ始めていないことはありますか?そのとき、今日の自分は何を選んでいたでしょうか。

答えを書く必要はありません。少し思い浮かべるだけで、記憶に残りやすくなります。

覚えるのはこの3つ

  1. 「今」と「少し先」の差は、遠い将来どうしの同じ差より大きく感じる(現在バイアス)
  2. そのため、先の予定では我慢を選ぶのに、その日が来ると目先を選ぶ(選好の逆転)
  3. 払ったのに通わないジム、先延ばし、貯蓄不足につながる。自分の自制心を高く見積もりすぎることも一因

TERMSこのレッスンの用語

現在バイアスPresent bias

「今」と「少し先」の差を、遠い将来どうしの同じ差より大きく感じ、目の前の得を重く見る傾向。

双曲割引Hyperbolic discounting

将来の価値を割り引く強さが、近い先ほど強く、遠い先ほど弱くなる形の割引。

選好の逆転Preference reversal

先の選択では大きくて遅いほうを選ぶのに、選択が目前に迫ると小さくて早いほうに選び方が入れ替わること。

LESSON 7-2 の確認

確認問題(全3問)

本文を見ずに答えてみましょう。思い出そうとすることが、いちばんの復習になります。

Q1. セイラーの1981年の調査からわかったこととして、正しいものはどれですか。

答えを見る

正解: 1. 1年あたりに直した割引は、1か月先より10年先のほうがずっと小さかった
割引は約345%(1か月先)から約19%(10年先)へと小さくなりました。目の前の「待つ」ほど重く感じるのがポイントです。

Q2. スポーツクラブの研究(2006年)で、月70ドルを超える定額会員について報告されたことはどれですか。

答えを見る

正解: 1. 平均で月4.3回通い、1回あたり17ドルを超えていた
惜しい選択肢もありますが、平均は月4.3回でした。10回券なら1回10ドルで済んだので、多くの会員は割高に払っていたことになります。

日常の場面で考える

Q3. Aさんは1か月前、「来月から毎週土曜に1時間、家の防災備蓄を点検する」と決めました。ところが土曜になると「今日は休んで来週にしよう」と延ばしています。この行動に最も近い説明はどれですか。

答えを見る

正解: 1. 今の手間を特別に重く感じ、予定の時と当日で選び方が入れ替わっている
1か月前は点検を選べたのに、当日になると目先の休みを選んでいます。これが現在バイアスによる選好の逆転です。

レッスン7-2はここまでです

迷った問題は、その見出しの本文を読み直してから次に進みましょう。間違えた問題は復習ページに自動で入ります。

第7章 時間割引と現在バイアス のレッスン一覧
  1. 7-1時間割引
  2. 7-2現在バイアス
  3. 7-3プランナー・ドーアー・モデル
  4. 7-4コミットメント

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出典(5件)
  1. Frederick, S., Loewenstein, G., & O'Donoghue, T. (2002). Time Discounting and Time Preference: A Critical Review. Journal of Economic Literature, 40(2), 351-401(Thaler 1981 の15ドル調査の数値と、選好の逆転の例と、同じ時点での比較が多いという注意点を確認)
  2. Thaler, R. H. (1981). Some empirical evidence on dynamic inconsistency. Economics Letters, 8(3), 201-207
  3. The Royal Swedish Academy of Sciences (2017). Richard H. Thaler: Integrating Economics with Psychology(2017年ノーベル経済学賞の科学的背景。Thaler 1981、O'Donoghue & Rabin 1999 の位置づけを確認)
  4. O'Donoghue, T., & Rabin, M. (1999). Doing It Now or Later. American Economic Review, 89(1), 103-124
  5. DellaVigna, S., & Malmendier, U. (2006). Paying Not to Go to the Gym. American Economic Review, 96(3), 694-719