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第12章 公共政策への応用 ・ レッスン12-3

省エネ・健診・税で見るナッジ。案内の一文で行動は変わるか

約5分 ・ 公開日 2026-10-06 ・ 更新日 2026-10-07

このレッスンの問い

手紙の一文を変えるだけで、検診を受ける人や税を納める人は増えると思いますか?増えるなら、どのくらいか予想してから読んでみましょう。

読む前に、答えを少しだけ予想してみてください。当たっていなくても大丈夫です。

前のレッスンの復習(1問)

本文に入る前に、前のレッスンを思い出してみましょう。

レッスン12-2から

Q1. 日本版ナッジ・ユニット(BEST)は、いつ、どこの呼びかけで発足しましたか。

答えを見る

正解: 1. 2017年4月に、環境省の呼びかけで
ここがポイントです。BESTは2017年4月に環境省の呼びかけで発足し、省庁や自治体、研究者が参加しています。

01省エネ:近所と比べるレポート

近所の家と電気の使用量を比べるレポートを届けると、家庭の消費は平均で約2%減りました。

アメリカのOPOWERという会社は、電力会社と組んで家庭に手紙を郵送しました。自宅の電気の使用量を、近所の家と比べて見せる手紙です。これをホームエネルギーレポートと呼びます。

アルコットは2011年、全米の約60万世帯の実験データを分析しました。手紙を受け取った家の消費は平均2.0%減りました。電気代を短期的に11〜20%上げたのと同じくらいの効果です。

日本でも環境省の事業で、2017〜2018年度に約50万世帯で省エネレポートを試しました。CO2の削減は平均2%で、2019年度も効果が続いたと報告されています。

02健診:受診案内の一文を変える

がん検診の案内に「受けないと失うもの」を書いた自治体では、受診率が7.2ポイント高くなりました。

東京都八王子市は、前の年に大腸がん検診を受けた人に検査キットを送っていました。大腸がんを見つけるには、毎年続けて受けることが必要だからです。

2016年、市は対象者を1,761人ずつ2つに分けて案内を送りました。片方には「受診すれば来年もキットを送ります」と書きました。もう片方には「受診しないと来年は送られなくなります」と書きました。

受診率は、得を伝えた側が22.7%、失うことを伝えた側が29.9%でした。4-3で学んだ損失回避を、案内の一文に生かした例です。

03税:督促状に「みんな納めています」

税の督促状に「10人中9人が期限内に納めています」と書き添えると、納める人が増えました。

イギリスの税務当局は2011年、BITと協力して、納付が遅れている約10万人への督促状を変えました。数種類の文面を無作為に割り当て、23日以内に納めた人の割合を比べたのです。

標準の督促状では、23日以内に納めた人は約36%でした。最も効いたのは「10人中9人が期限内に納めています」に続けて、少数派だと伝える文面です。「あなたはまだ納めていない、ごく少数の一人です」と加えると、標準の督促状より約4〜5ポイント高くなりました。

ここがポイントです。この差は時間とともに縮み、70日後には約1ポイントになりました。それでも費用はほとんどかからず、税を早く集め、電話や訪問による取り立てを減らすことにつながりました。

分野実施した組織変えたこと結果
省エネ(米国)OPOWERと電力会社近所と比べるレポートを郵送消費が平均2.0%減(約60万世帯の分析)
省エネ(日本)環境省の事業省エネレポートを郵送CO2が平均2%減(約50万世帯)
大腸がん検診東京都八王子市「受けないと来年は届かない」と書く受診率29.9%(得を伝えた案内は22.7%)
税の納付英国の税務当局とBIT「10人中9人が納めている。あなたは少数派」と書く23日以内の納付が標準の督促状より約4〜5ポイント増
政策で使われたナッジの3つの分野の事例(Allcott 2011、環境省資料、厚生労働省「受診率向上施策ハンドブック」、Hallsworth ほか 2017 をもとに作成)

あなたの場合は?

あなたの家に届く電気やガスの明細、自治体からの検診の案内には、どんな一文が書いてありますか?自分ならどう書き換えるか考えてみましょう。

答えを書く必要はありません。少し思い浮かべるだけで、記憶に残りやすくなります。

覚えるのはこの3つ

  1. 省エネ:近所と比べるレポートで、家庭の電気の消費が平均約2%減った(米国の約60万世帯の分析、日本の環境省事業でも約2%)
  2. 健診:八王子市で「受けないと来年はキットが届かない」と書くと、得を伝えた案内より受診率が7.2ポイント高かった
  3. 税:督促状に「10人中9人が期限内に納めている」と加えると納付が増えた。ただし差は時間とともに縮んだ

TERMSこのレッスンの用語

ホームエネルギーレポート(省エネレポート)Home Energy Report

家庭のエネルギーの使用量を近所の家と比べて示し、定期的に届ける手紙。

受診勧奨Screening invitation / reminder

検診や健診を受けるよう、自治体などが対象者に案内を送って勧めること。

LESSON 12-3 の確認

確認問題(全3問)

本文を見ずに答えてみましょう。思い出そうとすることが、いちばんの復習になります。

Q1. アルコット(2011)が分析したホームエネルギーレポートの効果として、正しいものはどれですか。

答えを見る

正解: 1. 家庭の電気の消費が平均約2%減った
約60万世帯のデータで、平均2.0%の減少でした。小さく見えますが、電気代を短期的に11〜20%上げたのと同じくらいの効果です。

Q2. 八王子市の大腸がん検診の案内の実験について、正しいものはどれですか。

答えを見る

正解: 2. 「受診しないと来年は送られなくなります」の案内のほうが受診率が高かった
惜しい、得を伝えるほうが効きそうに見えますね。実際は失うことを伝えた案内が29.9%で、得を伝えた案内の22.7%を上回りました。

日常の場面で考える

Q3. あなたは市の職員で、ごみの分別ルールを守れていない世帯に案内を送ります。この講座で学んだ税の督促状の例に最も近い一文はどれですか。

答えを見る

正解: 1. 「市内のほとんどの世帯が、分別ルールを守っています」
ここがポイントです。税の例は「多くの人が守っている」と伝える書き方でした。「守らない人が増えている」と書くと、10-4で学んだように逆効果になるおそれがあります。

レッスン12-3はここまでです

迷った問題は、その見出しの本文を読み直してから次に進みましょう。間違えた問題は復習ページに自動で入ります。

第12章 公共政策への応用 のレッスン一覧
  1. 12-1ナッジ・ユニット
  2. 12-2日本版ナッジ・ユニット
  3. 12-3政策のナッジ事例
  4. 12-4EBPM

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出典(4件)
  1. Allcott, H. (2011). Social norms and energy conservation. Journal of Public Economics, 95(9-10), 1082-1095.
  2. 環境省 ナッジPT(プラチナ)「ナッジ等の行動インサイトの活用を通じた行動変容の促進について」(令和元年12月26日、資料2(1))
  3. 厚生労働省「受診率向上施策ハンドブック 明日から使えるナッジ理論」
  4. Hallsworth, M., List, J. A., Metcalfe, R. D., & Vlaev, I. (2017). The behavioralist as tax collector: Using natural field experiments to enhance tax compliance. Journal of Public Economics, 148, 14-31.(著者受理原稿・ウォーリック大学リポジトリ)