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第4章 プロスペクト理論と損失回避 ・ レッスン4-2プロスペクト理論とは?損と得は「基準」から測る
約5分 ・ 公開日 2026-10-06
このレッスンの問い
確実に3000円もらうか、80%で4000円もらうか。では、確実に3000円失うか、80%で4000円失うか。2つの問いで、あなたの答えは同じになりそうですか?
読む前に、答えを少しだけ予想してみてください。当たっていなくても大丈夫です。
前のレッスンの復習(1問)
本文に入る前に、前のレッスンを思い出してみましょう。
Q1. ベルヌーイの考えでは、同じ1万円の価値は、持っているお金とどう関係しますか。
答えを見る
正解: 1. 持っているお金が多いほど、1万円の価値は小さくなる
お金持ちにとっての1万円は、手持ちが少ない人の1万円ほど大きくありません。効用は金額に比例しない、というのがここでのポイントです。
01結果は「基準からの差」で評価される
プロスペクト理論では、人は最終的に持っている額ではなく、基準からどれだけ得したか・損したかで結果を評価すると考えます。
前のレッスンの期待効用理論は、最終的にいくら持っているかで選択を考えました。1979年、心理学者のカーネマンとトベルスキーは、人はそう考えていないことを実験で示しました。
ある問題では、まず「1000もらった」と想像してもらい、「50%でさらに1000」か「確実にさらに500」かを選んでもらいました。別の問題では「2000もらった」うえで、「50%で1000失う」か「確実に500失う」かを選んでもらいました。
最終的な手元の額は、どちらも「確実に1500」か「五分五分で1000か2000」で同じです。それでも前者では84%が確実なほうを、後者では69%が賭けを選びました。人は最終的な額ではなく、基準(参照点)からの得と損で判断していたのです。
回答は学生と大学教員による、想像上の選択でした。参照点は第5章で詳しく学びます。
02得の場面では慎重に、損の場面では賭けに出る
得の場面では確実なほうを選び(リスク回避)、損の場面では賭けに出やすくなります(リスク追求)。
下の表は、原典の実験の一部です。「80%で4000もらう」と「確実に3000もらう」では、80%の人が確実な3000を選びました。賭けの平均は3200で、確実な額より大きいのにです。
ところが得を損にひっくり返すと、答えも逆になりました。「80%で4000失う」と「確実に3000失う」では、92%の人が賭けを選んだのです。平均の損は3200で、確実な損より大きいのにです。
得の場面で確実さを好むことをリスク回避、損の場面で賭けを好むことをリスク追求と呼びます。得と損で好みが反転するこの現象を、反射効果と呼びます。
職場でも、予算割れが見えてきた部署は、小さな赤字で確実に終えるより、一発逆転の大きな計画に飛びつきたくなるかもしれません。これは、損の場面のリスク追求と同じ形です。
03S字の価値関数と2002年のノーベル賞
得と損の感じ方は参照点を中心にしたS字のカーブで表され、この理論は2002年のカーネマンのノーベル経済学賞の中心になりました。
二人は、得と損の感じ方を価値関数というカーブで表しました。得の側も損の側も、額が大きくなるほど同じ差を小さく感じます。100と200の差は、1100と1200の差より大きく感じる、という具合です。
得の側でこう感じると、確実な得が魅力的に見えます。損の側でも同じなので、確実な損がつらく、賭けで避けたくなります。カーブが損の側で急なこと(損失回避)と、確率の感じ方のゆがみも理論の柱で、次の2レッスンで学びます。
2002年、カーネマンはノーベル経済学賞を受けました。授賞の発表では、トベルスキー(1996年に死去)と共に、より現実に合う理論としてプロスペクト理論を作ったことが挙げられています。
| 場面 | 賭け | 確実 |
|---|---|---|
| 得の場面(問題3、95人) | 80%で4000もらう:20% | 確実に3000もらう:80% |
| 損の場面(問題3'、95人) | 80%で4000失う:92% | 確実に3000失う:8% |
| 1000もらった後(問題11、70人) | 50%でさらに1000もらう:16% | 確実にさらに500もらう:84% |
| 2000もらった後(問題12、68人) | 50%で1000失う:69% | 確実に500失う:31% |
あなたの場合は?
すでに損をしている場面で、「ここで取り返そう」と、いつもより大きな賭けに出たくなったことはありますか?
答えを書く必要はありません。少し思い浮かべるだけで、記憶に残りやすくなります。
覚えるのはこの3つ
- 人は最終的な財産の額ではなく、参照点からの得と損で結果を評価する(Kahneman & Tversky 1979)
- 得の場面では確実なほうを選び(リスク回避)、損の場面では賭けに出やすい(リスク追求)
- プロスペクト理論は、2002年のカーネマンのノーベル経済学賞の中心になった
TERMSこのレッスンの用語
得と損を参照点からの差として感じる度合いを表すカーブ。得の側も損の側も、額が大きくなるほど同じ差を小さく感じるS字の形をしている。
得の場面ではリスクを避け、損の場面ではリスクを取るというように、得と損で好みが鏡に映したように反転する現象。
平均では不利でも、確実な結果より賭けを好む傾向。損の場面で起きやすい。反対に確実な結果を好む傾向をリスク回避と呼ぶ。
LESSON 4-2 の確認
確認問題(全3問)
本文を見ずに答えてみましょう。思い出そうとすることが、いちばんの復習になります。
Q1. プロスペクト理論では、人は結果を何で評価すると考えますか。
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正解: 2. 参照点からの得と損
最終的な額が同じ問題でも、得と損のどちらに見えるかで選択が変わりました。惜しいのは1つめで、総額で評価するのは期待効用理論の考え方です。
Q2. 原典の実験で「80%で4000失う」か「確実に3000失う」かを選んでもらうと、多数派はどちらを選びましたか。
答えを見る
正解: 1. 80%で4000失う賭け
92%が賭けを選びました。得の場面では確実なほうが選ばれたのと逆になります。ここがポイントで、これを反射効果と呼びます。
Q3. ある地域のお店が、今年は赤字になりそうだと分かりました。プロスペクト理論から予想される、店主が陥りやすい判断はどれですか。
答えを見る
正解: 1. 損の場面と感じて、大きな賭けに出たくなる
ここがポイントです。損の場面ではリスク追求が起きやすく、一発逆転を狙いたくなります。確実なほうを好むのは得の場面の傾向です。
出典(3件)
- Kahneman, D. & Tversky, A. (1979). Prospect Theory: An Analysis of Decision under Risk. Econometrica, 47(2), 263-291.
- The Royal Swedish Academy of Sciences. Press release: The Bank of Sweden Prize in Economic Sciences in Memory of Alfred Nobel 2002. NobelPrize.org
- The Royal Swedish Academy of Sciences. Popular information: Economic Sciences 2002. NobelPrize.org