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第4章 プロスペクト理論と損失回避 ・ レッスン4-3損失回避とは?失う痛みは得る喜びより大きい
約5分 ・ 公開日 2026-10-06
このレッスンの問い
コイン投げで、裏が出たら1万円を払います。表が出たらいくらもらえるなら、この賭けを受けますか?先に金額を決めてから読み進めましょう。
読む前に、答えを少しだけ予想してみてください。当たっていなくても大丈夫です。
前のレッスンの復習(1問)
本文に入る前に、前のレッスンを思い出してみましょう。
Q1. プロスペクト理論によると、「確実に1万円もらう」と「半々の確率で2万円か0円」から選ぶとき、多くの人はどうしますか。
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正解: 1. 確実に1万円もらうほうを選ぶ
得の場面では、確実なほうを選びやすくなります(リスク回避)。損の場面では逆に、賭けに出やすくなるのでした(リスク追求)。
01失う痛みは、得る喜びより大きい
同じ金額でも、人は得る喜びより失う痛みを強く感じます。
道で1万円を拾った喜びと、1万円を落とした悲しさを比べてみてください。多くの人は、落とした悲しさのほうが大きいと感じます。
同じ大きさの得と損なら、損のほうを重く感じる。この心の傾向を損失回避と呼びます。前のレッスンで学んだプロスペクト理論の柱の1つです。
得と損は、参照点(基準)から測るのでした。基準を少しでも下回ると、受け止め方が急に厳しくなります。持ち物を手放したがらない保有効果なども、この傾向とつながります(第5章で学びます)。
02五分五分の賭けは、勝ちが負けの約2倍で受ける
コイン投げのような五分五分の賭けでは、多くの人は勝ちの額が負けの額の約2倍ないと受けません。
トベルスキーとカーネマンは1992年、25人の大学院生に「半々の確率で25ドル失う賭けを、いくら勝てるなら受けるか」を尋ねました。答えの真ん中の値(中央値)は61ドルでした。
負けの額を50ドル、100ドル、150ドルと変えても、必要な勝ちの額はおよそ2倍でした。損を得の何倍重く感じるかを表す数を損失回避係数と呼び、この研究では2.25と推定されました。
職場で考えてみましょう。「成果しだいで月給が1万円上がるか下がるかが半々」という新しい評価制度は、損と得の額が同じでも嫌がられやすいと予想できます。
03強さは人や場面で変わる
損失回避は多くの研究で確かめられていますが、強さは人や場面で変わり、小さな金額では見られないという反論もあります。
2024年のメタ分析(多くの研究の結果をまとめる方法)は、150本の論文から607の推定値を集めました。損失回避係数の平均は約1.96で、やはり2倍に近い値でした。
一方、2018年にガルとラッカーは、損が得より強く響くとは全体としては言えないと反論しました。小さな金額の賭けでは、損を特に避ける傾向が見られなかった研究も挙げています。
これに対し2020年の研究は、約1万7700人のデータで、知識や経験が多い人ほど損失回避が弱いと報告しました。ただし、どの層にも損失回避は見られたとしています。どこまで一般的な傾向なのかは、まだはっきりしていません。
| 負けの額 | 受けるのに必要な勝ちの額 | 負けの何倍か |
|---|---|---|
| 25ドル | 61ドル | 約2.4倍 |
| 50ドル | 101ドル | 約2.0倍 |
| 100ドル | 202ドル | 約2.0倍 |
| 150ドル | 280ドル | 約1.9倍 |
あなたの場合は?
最近、得をするかもしれないのに、損が怖くてやめたことはありますか?得と損の金額を書き出して並べると、どう見えるでしょうか。
答えを書く必要はありません。少し思い浮かべるだけで、記憶に残りやすくなります。
覚えるのはこの3つ
- 損失回避とは、同じ金額なら得る喜びより失う痛みを強く感じる傾向
- 五分五分の賭けでは、多くの人は勝ちが負けの約2倍ないと受けない(1992年の推定は2.25、2024年のメタ分析の平均は約1.96)
- 強さは人や場面で変わり、小さな金額では見られないという反論もある。どこまで一般的かは、まだはっきりしていない
TERMSこのレッスンの用語
同じ大きさの得と損なら、得る喜びより失う痛みを強く感じる心の傾向。
損を得の何倍重く感じるかを表す数。Tversky & Kahneman(1992)の推定は2.25。
LESSON 4-3 の確認
確認問題(全3問)
本文を見ずに答えてみましょう。思い出そうとすることが、いちばんの復習になります。
Q1. Tversky & Kahneman(1992)の実験で、「半々の確率で100ドル失う」賭けを受けるのに必要とされた勝ちの額(中央値)に最も近いものはどれですか。
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正解: 2. 約200ドル
中央値は202ドルで、負けの約2倍でした。損と得が同じ100ドルでは、多くの人は受けないのがポイントです。
Q2. 損失回避の強さについて、本文の内容と合うものはどれですか。
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正解: 2. 知識や経験が多い人ほど、損失回避が弱いという報告がある
2020年の研究がそう報告しています。強さは人や場面で変わり、2018年の反論のあとも議論は続いています。決着はまだついていません。
Q3. 町内会で、ごみ減量の新しいルールを試す案が出ました。うまくいけば各家庭に年1000円が戻り、だめなら年1000円の負担が増え、どちらになるかは半々です。損失回避から予想される反応はどれですか。
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正解: 3. 同じ額でも損のほうが重く感じられ、反対が出やすい
ここがポイントです。同じ1000円でも、負担が増える痛みのほうが重く感じられます。賛成を集めるには、戻る額を大きくするなどの工夫が考えられます。
出典(4件)
- Tversky, A., & Kahneman, D. (1992). Advances in prospect theory: Cumulative representation of uncertainty. Journal of Risk and Uncertainty, 5(4), 297-323.
- Brown, A. L., Imai, T., Vieider, F. M., & Camerer, C. F. (2024). Meta-analysis of empirical estimates of loss aversion. Journal of Economic Literature, 62(2), 485-516.
- Gal, D., & Rucker, D. D. (2018). The loss of loss aversion: Will it loom larger than its gain? Journal of Consumer Psychology, 28(3), 497-516.
- Mrkva, K., Johnson, E. J., Gächter, S., & Herrmann, A. (2020). Moderating loss aversion: Loss aversion has moderators, but reports of its death are greatly exaggerated. Journal of Consumer Psychology, 30(3), 407-428.