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第4章 プロスペクト理論と損失回避 ・ レッスン4-1

期待効用理論とは?伝統的な「リスクのある選択」の考え方

約4分 ・ 公開日 2026-10-06

このレッスンの問い

50%で200万円、50%で0円のくじ。90万円で売ってほしいと言われたら、売りますか?まず予想してみてください。

読む前に、答えを少しだけ予想してみてください。当たっていなくても大丈夫です。

01良さに確率をかけて足す

期待効用理論とは、それぞれの結果の良さに確率をかけて足し、合計がいちばん大きい選択肢を選ぶ、という考え方です。

結果が前もってわからない選択を、リスクのある選択と呼びます。転職するか、新しい品種を育てるか。私たちは毎日のように、こうした選択をしています。

昔の数学者は、金額に確率をかけて足した平均で、くじの価値を決めていました。この平均を期待値と呼びます。冒頭のくじの期待値は100万円です。

期待効用理論は、金額の代わりに「その人にとっての良さ」を使います。この良さを効用と呼び、効用に確率をかけて足したものが期待効用です。

02同じ1万円でも重さが違う

効用は金額に比例しません。持っているお金が多い人ほど、同じ金額から得る良さは小さくなります。

1738年、数学者のダニエル・ベルヌーイは、冒頭とよく似たくじの例を出しました。とても貧しい人がこのくじを持っていたら、確実な額で売るほうが賢いと考えたのです。

逆に、お金持ちなら同じ額でくじを買うのが賢いとしました。理由は、同じ額を得ても、貧しい人にとっての意味のほうがずっと大きいからです。

持っているお金が増えるほど、追加の1万円の良さはだんだん小さくなります。これを限界効用逓減と呼びます。下の表で、2人の答えが分かれる理由を確かめましょう。

03理論として整い、標準になった

1944年、フォン・ノイマンとモルゲンシュテルンが期待効用を理論として整え、経済学の標準的な道具になりました。

フォン・ノイマンとモルゲンシュテルンは、1944年に『ゲームの理論と経済行動』を出版しました。いくつかの筋の通った前提を満たす人は、期待効用が最大の選択肢を選ぶと示したのです。

この理論は、経済学で人の選択を説明する標準的な道具として使われるようになりました。たとえば、地域の農家が収穫の安定する品種を選ぶ理由も説明できます。平均は少し低くても、不作の年の痛手が大きいからです。

ただし、現実の人の選択を正確には予測できないこともわかってきました。一方で、「合理的な人ならどう選ぶべきか」を示す理論として扱う見方もあります。どこがずれるのかは、次のレッスンで学びます。

貯金がほとんどない人お金持ち
くじの期待値100万円100万円
確実な90万円の重さ生活が変わるほど大きい財産のごく一部
0円になったときの痛手とても大きい小さい
ベルヌーイの答え90万円で売るのが賢い90万円で買うのが賢い
50%で200万円、50%で0円のくじを90万円で売り買いする場合(Bernoulli 1738 の例をもとに作成。原文の単位はダカット)

あなたの場合は?

同じ5,000円の出費でも、給料日の前と後で重さが違うと感じたことはありますか?

答えを書く必要はありません。少し思い浮かべるだけで、記憶に残りやすくなります。

覚えるのはこの3つ

  1. 期待効用理論とは、結果の良さ(効用)に確率をかけて足し、いちばん大きい選択肢を選ぶという考え方
  2. 効用は金額に比例しない。持っているお金が多いほど、同じ1万円の良さは小さくなる(ベルヌーイ、1738年)
  3. フォン・ノイマンとモルゲンシュテルン(1944年)が理論として整え、経済学の標準になった

TERMSこのレッスンの用語

期待値Expected value

それぞれの結果の金額に確率をかけて足した平均。くじの「平均でいくらもらえるか」を表す。

効用Utility

ある結果がその人にとってどれだけ良いか、満足できるかを表す度合い。同じ金額でも人によって違う。

限界効用逓減Diminishing marginal utility

持っている量が増えるほど、追加の1単位から得る良さがだんだん小さくなること。

LESSON 4-1 の確認

確認問題(全3問)

本文を見ずに答えてみましょう。思い出そうとすることが、いちばんの復習になります。

Q1. 期待効用理論で、選択肢を比べるときに使うものはどれですか。

答えを見る

正解: 2. それぞれの結果の良さ(効用)に確率をかけて足した合計
ポイントは「良さ×確率を足す」ことです。金額ではなく、その人にとっての良さを使うところが期待値との違いです。

Q2. ベルヌーイが「効用は金額に比例しない」と考えた理由として、正しいものはどれですか。

答えを見る

正解: 1. 同じ金額を得ても、貧しい人にとっての意味のほうが大きいから
惜しい選択肢もありますが、ベルヌーイは持っているお金の量に注目しました。多く持つ人ほど、同じ額から得る良さは小さくなります。

日常の場面で考える

Q3. 貯金の少ない若手社員が、成果しだいで年収が大きく上下する仕事より、少し低くても安定した給料の仕事を選びました。期待効用理論ではどう説明できますか。

答えを見る

正解: 3. 収入が大きく減ったときの痛手が大きいので、安定のほうが期待効用が大きくなる、と説明する
ここがポイントです。お金が少ない人ほど、減ったときの痛手が大きくなります。そのため、平均が少し低くても安定した選択肢の期待効用が大きくなりえます。

レッスン4-1はここまでです

迷った問題は、その見出しの本文を読み直してから次に進みましょう。間違えた問題は復習ページに自動で入ります。

第4章 プロスペクト理論と損失回避 のレッスン一覧
  1. 4-1期待効用理論
  2. 4-2プロスペクト理論
  3. 4-3損失回避
  4. 4-4確率の重みづけ
  5. 4-5フレーミング効果

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出典(3件)
  1. Stanford Encyclopedia of Philosophy「Normative Theories of Rational Choice: Expected Utility」(R. A. Briggs、2014年初出・2023年改訂)
  2. Bernoulli, D. (1954). Exposition of a New Theory on the Measurement of Risk (L. Sommer訳、原著1738年). Econometrica, 22(1), 23-36
  3. Princeton University Press「Theory of Games and Economic Behavior」(von Neumann & Morgenstern、初版1944年)