HOME / ゼロから学ぶ行動経済学 / 講座 / 第13章 実験の方法と再現性・批判 / 再現性の問題
第13章 実験の方法と再現性・批判 ・ レッスン13-3再現性の問題とは?有名な研究が追試で揺らぐとき
約5分 ・ 公開日 2026-10-06 ・ 更新日 2026-10-07
このレッスンの問い
教科書に載るような有名な心理学の研究を、別の研究者が同じ手順でやり直したとします。同じ結果が出るのは何割くらいだと思いますか?読む前に予想してみましょう。
読む前に、答えを少しだけ予想してみてください。当たっていなくても大丈夫です。
前のレッスンの復習(1問)
本文に入る前に、前のレッスンを思い出してみましょう。
Q1. ランダム化比較試験で、対象者をくじ引きのように群に分けるのはなぜでしたか。
答えを見る
正解: 1. 他の違いが平均すると打ち消され、施策そのものの効果が分かるから
くじで分けると、年齢ややる気などの違いが両方の群に同じくらい散らばります。だから群の差を施策の効果とみなせるのでした。
01心理学では、同じ結果が出たのは約4割
心理学の100の研究をやり直すと、元と同じくはっきりした結果が出たのは36%でした。
研究で同じ手順をもう一度行い、同じ結果が出るかを確かめることを追試と呼びます。何度やっても同じ結果が出ることが、科学の信頼の土台です。
2015年、多くの研究者が協力して、心理学の3つの学術誌に載った100の研究をやり直しました。元の研究では97%がはっきりした結果を出していました。
ところが追試で統計的にはっきりした結果が出たのは36%でした。研究者の判断で「再現できた」とされたのも39%で、効果の大きさは平均で元の半分ほどでした。
02経済学の実験では約6割
経済学の実験18本をやり直すと、同じ向きのはっきりした効果が出たのは11本、61%でした。
2016年には、経済学の有名な2つの学術誌に2011〜2014年に載った実験18本が追試されました。追試はどれも、どう分析するかを始める前に公開していました。
このように計画を先に公開しておくことを事前登録と呼びます。結果を見てから都合のよい分析を選ぶ、という抜け道をふさぐ工夫です。
結果は18本中11本で、同じ向きのはっきりした効果が出ました。ただし効果の大きさは、平均で元の研究の約3分の2にとどまりました。
03ナッジの効果も論争が続いている
ナッジの研究をまとめた分析にも、出版バイアスを補正すると全体の効果の証拠が残らないという指摘があります。
2022年、200以上の研究、約215万人分のナッジの結果をまとめた分析は、ナッジには小〜中くらいの効果があると報告しました。同じ論文は、良い結果ほど論文になりやすい偏りがあることも認めていました。
これに対し別のチームは、この偏り(12-4で学んだ出版バイアス)を補正すると、全体の効果がはっきりあるという証拠は残らないと指摘しました。ただ効果のばらつきは大きく、一部のナッジは効く可能性もあります。どんなナッジが効くのかは、まだはっきりしていません。
12-4で見たように、論文と行政の現場でも効果に差がありました。この講座でも、第6章のハウスマネー効果は2025年の追試で再現されず、第7章の締め切りの実験は追試で再現されず撤回されています。たとえば職場で節電の工夫を広める前に、追試があるかを確かめると安心です。
| 調べた研究 | やり直した・まとめた数 | 分かったこと |
|---|---|---|
| 心理学の研究(2015年) | 100の研究 | はっきりした結果は97%から36%へ。効果の大きさは約半分 |
| 経済学の実験(2016年) | 18本の実験 | 11本(61%)で同じ向きの効果。大きさは元の約3分の2 |
| ナッジの研究(2022年) | 200以上の研究、約215万人 | 小〜中くらいの効果。ただし出版バイアスを補正すると、全体の効果の証拠は残らないという指摘あり |
あなたの場合は?
ニュースやSNSで「〇〇するだけで行動が変わる」という研究を見たとき、あなたはまず何を確かめますか?
答えを書く必要はありません。少し思い浮かべるだけで、記憶に残りやすくなります。
覚えるのはこの3つ
- 心理学の100の研究を追試すると、同じくはっきりした結果が出たのは約4割(36%)だった(2015年)
- 経済学の実験18本の追試では約6割(61%)が再現され、効果の大きさは平均で元の約3分の2だった(2016年)
- ナッジの効果をまとめた分析には、出版バイアスを補正すると全体の効果の証拠が残らないという指摘があり、論争が続いている
TERMSこのレッスンの用語
すでに発表された研究と同じ手順で、もう一度実験や調査を行い、同じ結果が出るかを確かめること。
研究を始める前に、仮説やデータの集め方、分析の方法を公開しておくこと。結果を見てから分析を選ぶことを防ぐ。
LESSON 13-3 の確認
確認問題(全3問)
本文を見ずに答えてみましょう。思い出そうとすることが、いちばんの復習になります。
Q1. 2015年に心理学の100の研究を追試したところ、統計的にはっきりした結果が出たのはどのくらいでしたか。
答えを見る
正解: 1. 約4割(36%)
97%は元の研究の数字です。ここがポイントで、追試では36%に下がり、効果の大きさも約半分になりました。
Q2. ナッジの研究をまとめた分析に対し、2022年に別のチームが示した指摘はどれですか。
答えを見る
正解: 1. 出版バイアスを補正すると、全体の効果がはっきりあるという証拠は残らない
惜しい選択肢は3つめです。効果のばらつきは大きく、一部のナッジは効く可能性があるので、「すべて効かない」とまでは言えません。
Q3. 上司が「ある論文では、通知の文面を変えるだけで提出率が大きく上がった。全社ですぐ導入しよう」と言いました。この講座の内容から見て、よい対応はどれですか。
答えを見る
正解: 1. 追試で確かめられているかを調べ、まず一部で比べて効果を確かめる
有名な研究でも、追試で効果が小さくなることがあります。一方で、多くの研究は再現されているので、すべて無視するのも行きすぎです。
出典(5件)
- Open Science Collaboration (2015). Estimating the reproducibility of psychological science. Science, 349(6251), aac4716.(100の研究の追試、元の研究97%・追試36%が有意、39%が再現と判断、効果の大きさは約半分)
- Camerer, C. F., et al. (2016). Evaluating replicability of laboratory experiments in economics. Science, 351(6280), 1433-1436.(AER・QJEの2011〜2014年の18本を事前公開の分析計画で追試、11本61%、効果の大きさは平均66%)
- Mertens, S., Herberz, M., Hahnel, U. J. J., & Brosch, T. (2022). The effectiveness of nudging: A meta-analysis of choice architecture interventions across behavioral domains. PNAS, 119(1), e2107346118.(200以上の研究・450以上の効果量・2,149,683人、小〜中の効果、中程度の出版バイアス)
- Maier, M., Bartoš, F., Stanley, T. D., Shanks, D. R., Harris, A. J. L., & Wagenmakers, E.-J. (2022). No evidence for nudging after adjusting for publication bias. PNAS, 119(31), e2200300119.(補正後、全体の効果の証拠なし。ばらつきが大きく一部は有効の可能性)
- Mertens, S., et al. (2022). Reply to Maier et al., Szaszi et al., and Bakdash and Marusich: The present and future of choice architecture research. PNAS, 119(31), e2202928119.(出版バイアスが問題であることを認め、事前登録や効果なしの結果の公表を呼びかけ)