HOME / ゼロから学ぶ行動経済学 / 講座 / 第13章 実験の方法と再現性・批判 / 実験経済学
第13章 実験の方法と再現性・批判 ・ レッスン13-1実験経済学とは?実験室で経済を確かめる
約5分 ・ 公開日 2026-10-06 ・ 更新日 2026-10-07
このレッスンの問い
経済の理論は、天気予報のように観察するしかないのでしょうか。それとも、理科のように実験で確かめられるでしょうか。読む前に予想してみてください。
読む前に、答えを少しだけ予想してみてください。当たっていなくても大丈夫です。
01実験室で経済を確かめる
実験経済学とは、実験室で人に実際のお金がかかった選択をしてもらい、経済の理論が正しいかを確かめる方法です。
経済学は長いあいだ、天文学や気象学のように、現実を観察するしかない学問と考えられてきました。そこに実験という道具を持ち込んだのが、実験経済学です。
バーノン・スミスの初期の実験では、参加者をくじで買い手と売り手に分けました。買い手には「ここまでなら払う」、売り手には「ここまでなら売る」という値段を渡し、自由に取引してもらいます。
参加者は理論の答えを計算する情報を持っていませんでした。それでも、1962年に発表した結果では、値段は理論が予測する値にとても近くなりました。スミスは2002年、カーネマンとともにノーベル経済学賞を受賞しています。
02本物のお金を払うのは本気の選択を引き出すため
実験の結果に応じて実際のお金を払うのは、参加者に本気で選んでもらうためです。
架空の買い物なら、人は適当に答えるかもしれません。スミスは、実験でお金による動機づけを用意することの大切さを強調しました。
ただ、参加者には自分の好みがあり、それが実験の邪魔をします。そこで、品物の値打ちを実験者が決めて渡し、結果に応じて報酬を払う工夫を取り入れました。これを誘導価値法と呼びます。
実験室は、新しい市場の仕組みを本番の前に試す場にもなります。電力市場の自由化のような制度を先に試すことを、飛行機の設計になぞらえて風洞実験と呼びます。オーストラリアとニュージーランドでは、エネルギー市場の実験結果が実際の市場設計に影響しました。
03実験室の結果を広げるときの注意
実験室での行動が、そのまま現実の行動を表すとは限りません。
レヴィットとリストは2007年の論文で、実験室の行動が外の世界の良い手がかりになるかを、重要な問いとして取り上げました。人の選択は、お金だけでなく、他人に見られている度合いや場面、参加者の選ばれ方でも変わるからです。研究の結果がどこまで現実に当てはまるかという問題を、外的妥当性と呼びます。
多くの実験は、自分から応募した学生を参加者にしています。また、実験の謝礼は、現実の市場で動く金額よりずっと小さいのが普通です。
ここがポイントです。実験室は、第8章で学んだ公平さを気にする傾向を、大きく見せることも小さく見せることもあると指摘されています。どれくらいずれるかは、まだはっきりしていません。
| 役 | 渡された値段 | この値段で取引できるか(950円のとき) |
|---|---|---|
| 買い手A | 1200円まで払う | できる |
| 買い手B | 1000円まで払う | できる |
| 買い手C | 800円まで払う | できない |
| 売り手D | 600円以上で売る | できる |
| 売り手E | 900円以上で売る | できる |
| 売り手F | 1100円以上で売る | できない |
あなたの場合は?
あなたの職場や地域で、新しい制度をいきなり始める前に、小さく試してみるとよさそうなことはありますか?
答えを書く必要はありません。少し思い浮かべるだけで、記憶に残りやすくなります。
覚えるのはこの3つ
- 実験経済学とは、実験室で人に実際のお金がかかった選択をしてもらい、経済の理論を確かめる方法
- 2002年、実験を経済学の道具として確立したバーノン・スミスがノーベル経済学賞を受賞した
- 結果に応じてお金を払うのは本気の選択を引き出すため。ただし参加者は学生が多いなど、現実に広げるときは注意がいる
TERMSこのレッスンの用語
品物の値打ちを実験者が決めて参加者に渡し、結果に応じて報酬を払うことで、本人の好みに左右されず実験の意図どおりに行動してもらう方法。
新しい市場の仕組みや制度を、本番で始める前に実験室で試してみること。
ある研究の結果が、別の人々や場面、現実の世界にどこまで当てはまるかという問題。
LESSON 13-1 の確認
確認問題(全3問)
本文を見ずに答えてみましょう。思い出そうとすることが、いちばんの復習になります。
Q1. スミスの初期の市場実験で分かったこととして、正しいものはどれですか。
答えを見る
正解: 1. 参加者は理論の答えを計算できなかったが、値段は理論の予測にとても近くなった
驚きのポイントは、参加者が均衡の値段を計算する情報を持っていなかったのに、取引の値段が理論に近づいたことです。
Q2. 実験経済学で、成績に応じて実際のお金を払う主な理由はどれですか。
答えを見る
正解: 2. 本気の選択を引き出し、与えられた値段に沿って行動してもらうため
架空の選択では適当に答えるかもしれません。結果に応じて報酬を払うことで、本気で選んでもらいます。
Q3. 大学生を集めた実験で「人は公平さを強く気にする」という結果が出ました。この結果を、大金が動く企業どうしの取引に当てはめるときの考え方として、最も適切なものはどれですか。
答えを見る
正解: 3. 参加者の選ばれ方や金額の大きさが違うので、そのまま当てはまるとは限らない
惜しい選択肢もありますが、実験は無意味ではありません。参加者や金額、見られ方の違いを考えて、慎重に広げることが大切です。
出典(4件)
- NobelPrize.org「The Prize in Economic Sciences 2002 - Press release」
- NobelPrize.org「Popular information: Psychological and experimental economics」(2002年 経済学賞の解説)
- Levitt, S. D. & List, J. A. (2007) What Do Laboratory Experiments Measuring Social Preferences Reveal About the Real World? Journal of Economic Perspectives 21(2): 153-174(要旨)
- Levitt, S. D. & List, J. A. 同論文の著者公開版(2006年6月版 "What Do Laboratory Experiments Tell Us About the Real World?")