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第8章 社会的選好 ・ レッスン8-2

最後通牒ゲームと独裁者ゲーム。公平さを測る実験

約5分 ・ 公開日 2026-10-06

このレッスンの問い

1万円を2人で分けます。相手が「あなたに千円」と提案し、断れば2人ともゼロです。あなたは受け取りますか?読む前に予想してみましょう。

読む前に、答えを少しだけ予想してみてください。当たっていなくても大丈夫です。

前のレッスンの復習(1問)

本文に入る前に、前のレッスンを思い出してみましょう。

レッスン8-1から

Q1. 前のレッスンで学んだ、社会的選好の主な形のうち「自分と他人の取り分に差があること自体が不満」という気持ちはどれでしたか。

答えを見る

正解: 1. 不平等回避
差があることへの不満を、不平等回避と呼びました(Fehr & Schmidt 1999)。互恵性はお返し、利他性は他人のためになりたい気持ちです。

01最後通牒ゲーム。損をしても断る

最後通牒ゲームでは、自分が損をしてでも、不公平な提案を断る人が多くいます。

一人(提案者)がお金の分け方を決め、もう一人(受け手)が受け入れるか断るかを選びます。断ると、2人とも何ももらえません。この実験を最後通牒ゲームと呼びます。

自分の得だけを考えるなら、受け手は1円でも受け入れるはずです。それを見越した提案者は、ほんの少しだけ渡すはずですね。ところが1982年、ドイツのギュートらが大学院生で試すと、結果は違いました。

受け手は、取り分が少なすぎると損をしても断りました。論文は、人は公平だと思う結果を頼りにし、相手が欲張りすぎると罰することをためらわない、とまとめています。

後で紹介するヘンリックらによると、工業社会では、取り分が20%未満の提案は40〜60%の確率で断られます。取引先に「この条件でなければ契約しない」と迫る値引き交渉も、形はこのゲームに似ています。

02独裁者ゲーム。断られなくても分ける

断られる心配がない独裁者ゲームでも、人は平均すると手元のお金の約3割を相手に分けます。

提案者が多めに渡すのは、公平さのためでしょうか。それとも断られるのが怖いからでしょうか。これを見分けるには、受け手が断れない形の実験を使います。

一人が分け方を決め、相手はそのまま受け取るしかない実験を独裁者ゲームと呼びます。1994年のフォーサイスらが2つのゲームを比べると、結果ははっきり違いました。公平さだけでは説明できない、という結論です。

2011年のエンゲルは、616の実験条件の結果をまとめ直しました。平均すると、独裁者は手元のお金の約28%を渡していました。ただし約36%の人は何も渡さず、半分ずつにした人は約17%でした。

断られる心配がなくても、渡す額はゼロではありません。人は損得だけでも、公平さだけでも動いていないことがわかります。

03結果は社会によって違う

どれくらい分け、どれくらい断るかは、社会によって大きく違います。

大学生ばかり調べても、人間全体のことはわかりません。そこでヘンリックらは、5つの大陸の15の小規模な社会で同じ実験をしました。狩猟採集、焼畑農業、遊牧などで暮らす人々です。

最後通牒ゲームの平均の提案は、ペルーのマチゲンガの26%から、インドネシアのラマレラの58%まで開きました。工業社会の平均はおよそ44%です。どの社会でも、自分の得だけを考える人という予想は当てはまりませんでした。

市場での売り買いが暮らしに入り込んでいる社会ほど、実験での協力も大きい傾向がありました。この市場との結びつきの度合いを、市場統合と呼びます。一方、年齢や性別など個人の違いでは説明できませんでした。

ゲーム受け手は断れる?自分の得だけを考える人の予想実験でわかったこと
最後通牒ゲーム断れる(断ると2人ともゼロ)提案はごくわずか。受け手はそれでも受け入れる工業社会の平均の提案は約44%。20%未満の提案は40〜60%の確率で断られる
独裁者ゲーム断れない何も渡さない平均で約28%を渡す。何も渡さない人は約36%、半分ずつは約17%
15の小規模社会の最後通牒ゲーム断れる提案はごくわずか平均の提案は26%〜58%と社会によって大きく違う
2つのゲームの予想と実際の結果(Güth ほか 1982、Henrich ほか 2001、Engel 2010/2011 をもとに作成)

あなたの場合は?

あなたが誰かとお金や仕事を分けるとき、相手が断れない立場だったら、どれくらい分けますか?相手が断れる立場のときと比べてみましょう。

答えを書く必要はありません。少し思い浮かべるだけで、記憶に残りやすくなります。

覚えるのはこの3つ

  1. 最後通牒ゲームでは、自分が損をしてでも不公平な提案を断る人が多い(ギュートら 1982)
  2. 断られる心配のない独裁者ゲームでも、平均で約3割(約28%)を相手に分ける(エンゲルのまとめ)
  3. 結果は社会によって違い、15の小規模社会では平均の提案が26%〜58%と大きく開いた(ヘンリックら 2001)

TERMSこのレッスンの用語

最後通牒ゲームUltimatum game

一人がお金の分け方を提案し、もう一人が受け入れるか断るかを決める実験。断ると2人とも何ももらえない。

独裁者ゲームDictator game

一人がお金の分け方を決め、相手は断れずにそのまま受け取る実験。断られる心配がなくても人がどれだけ分けるかを見る。

市場統合Market integration

その社会の暮らしに、市場での売り買いがどれだけ入り込んでいるかの度合い。

LESSON 8-2 の確認

確認問題(全3問)

本文を見ずに答えてみましょう。思い出そうとすることが、いちばんの復習になります。

Q1. 最後通牒ゲームで、自分の得だけを考える受け手なら、どうするはずですか。

答えを見る

正解: 1. 0円より多ければ、どんなに少なくても受け入れる
断ると自分もゼロになるので、得だけを考えるなら少しでも受け取るはずです。ここがポイントで、実際には少なすぎる提案を損してでも断る人が多くいました。

日常の場面で考える

Q2. 町内会で集めたお金の配り方を会長が一人で決め、住民は異議を言えずにそのまま受け取る仕組みがあります。この形に近い実験はどれですか。

答えを見る

正解: 1. 独裁者ゲーム
相手が断れないので独裁者ゲームの形です。惜しいのは最後通牒ゲームで、こちらは受け手が断れる点が違います。公共財ゲームは、みんなでお金を出し合う実験です。

Q3. 15の小規模社会で最後通牒ゲームを行った研究(ヘンリックら 2001)でわかったことはどれですか。

答えを見る

正解: 1. 平均の提案は社会によって大きく違った
平均の提案は26%から58%まで開きました。どの社会でも、自分の得だけを考える人という予想は当てはまらず、個人の違いでは説明できませんでした。

レッスン8-2はここまでです

迷った問題は、その見出しの本文を読み直してから次に進みましょう。間違えた問題は復習ページに自動で入ります。

第8章 社会的選好 のレッスン一覧
  1. 8-1社会的選好
  2. 8-2最後通牒ゲームと独裁者ゲーム
  3. 8-3公平さと値上げ
  4. 8-4互恵性

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出典(4件)
  1. Güth, W., Schmittberger, R., & Schwarze, B. (1982). An experimental analysis of ultimatum bargaining. Journal of Economic Behavior & Organization, 3(4), 367-388.
  2. Forsythe, R., Horowitz, J. L., Savin, N. E., & Sefton, M. (1994). Fairness in Simple Bargaining Experiments. Games and Economic Behavior, 6(3), 347-369.
  3. Henrich, J., Boyd, R., Bowles, S., Camerer, C., Fehr, E., Gintis, H., & McElreath, R. (2001). In Search of Homo Economicus: Behavioral Experiments in 15 Small-Scale Societies. American Economic Review, 91(2), 73-78.
  4. Engel, C. (2011). Dictator games: a meta study. Experimental Economics, 14(4), 583-610.(数値は Max Planck Institute for Research on Collective Goods のプレプリント 2010/07 で確認)