HOME / ゼロから学ぶ行動経済学 / 講座 / 第8章 社会的選好 / 社会的選好

第8章 社会的選好 ・ レッスン8-1

社会的選好とは?人は自分の得だけで動くのか

約5分 ・ 公開日 2026-10-06

このレッスンの問い

同じ仕事をしている同僚が、自分より月1万円多くもらっていると知ったら、どう感じますか? 自分の給料は1円も減っていないのに、モヤモヤしそうか予想してみましょう。

読む前に、答えを少しだけ予想してみてください。当たっていなくても大丈夫です。

01人は自分の得だけでは動かない

多くの人は、自分の得だけでなく、他人の得や公平さも気にして行動します。

第1章で学んだ合理的経済人は、自分の得だけを考える人でした。しかし現実には、自分の得が変わらなくても、他人との差や相手の態度が気になります。

自分の得に加えて、身近な相手の得も気にかける傾向。これを社会的選好と呼びます。気にかけ方には、相手の得を喜ぶプラスの向きも、相手の得を嫌うマイナスの向きもあります。

この考えは新しいものではありません。1759年にアダム・スミスが『道徳感情論』で、思いやりや公平さを人の大事な動機として書いています。

02主な形は3つ

社会的選好の主な形は、利他性・不平等回避・互恵性の3つです。

1つめは、見返りがなくても相手のためになりたい気持ちで、利他性と呼びます。2つめは、自分と他人の差そのものを嫌う気持ちです。フェールとシュミットは1999年、これを不平等回避として理論にしました。

不平等回避には向きがあります。自分が少ない差だけでなく、自分が多い差も嫌う人がいます。ただし多くの場合、自分が少ないほうの不満がより強いと考えます。

3つめは、親切には親切で、不親切には仕返しで返したくなる気持ちで、互恵性と呼びます。公平さへの気持ちは職場にも表れます。不景気でも会社が賃下げを避ける大きな理由は、不公平と受け取られてやる気が落ちるのを恐れるためだ、という調査があります。

03でたらめではなく、説明できる

社会的選好は気まぐれではなく、決まった形を持つので、理論に組み込んで行動を説明できます。

フェールとシュミットは、不平等回避という1つの単純な原理で、さまざまな実験の結果をまとめて説明しました。公平さを気にする人と自分の得だけを考える人が混ざっている、と考えるのがポイントです。

人によって違いが大きいことも分かっています。どちらのタイプの行動が全体の結果を左右するかは、置かれた環境によって変わります。たとえば競争の激しい市場では、公平さを気にする人も自分の得を追うように見えることがあります。

一方で、利他性・不平等回避・互恵性のどれがどの場面でどれだけ働くのか、見分ける研究は今も続いています。まだはっきりしていない部分もある、と覚えておきましょう。

形気にしていること職場や暮らしの例詳しく学ぶ場所
利他性相手が得をすること見返りのない募金や手助け8-2 独裁者ゲーム
不平等回避自分と他人の差同じ仕事なのに給料が違うと不満8-2 最後通牒ゲーム、8-3
互恵性相手の行動が親切か不親切か手伝ってくれた同僚を手伝い返す8-4、第9章
社会的選好の主な3つの形(Fehr & Schmidt 1999、Fehr & Fischbacher 2002・2003 をもとに作成)

あなたの場合は?

最近、自分は損も得もしていないのに「それは不公平だ」と感じたことはありますか? 3つの形のどれに近いか考えてみましょう。

答えを書く必要はありません。少し思い浮かべるだけで、記憶に残りやすくなります。

覚えるのはこの3つ

  1. 人は自分の得だけでなく、他人の得や公平さも気にする(社会的選好)
  2. 主な形は3つ。相手のためになりたい(利他性)、差を嫌う(不平等回避)、お返しをしたい(互恵性)
  3. 合理的経済人の前提とは違うが、でたらめではなく、理論で説明できる

TERMSこのレッスンの用語

利他性Altruism

見返りがなくても、自分が負担をして相手のためになろうとする傾向。

不平等回避Inequity aversion

自分と他人の取り分の差そのものを嫌う傾向。自分が少ない差への不満のほうが強い。

互恵性Reciprocity

親切には親切で、不親切には仕返しで返したくなる傾向。

LESSON 8-1 の確認

確認問題(全3問)

本文を見ずに答えてみましょう。思い出そうとすることが、いちばんの復習になります。

Q1. 社会的選好の説明として、最も適切なものはどれですか。

答えを見る

正解: 2. 自分の得に加えて、他人の得や公平さも気にする傾向
ここがポイントです。社会的選好は、自分の得を捨てることではなく、自分の得に加えて他人の得や公平さも気にすることです。1つめは合理的経済人の前提です。

Q2. フェールとシュミット(1999)の不平等回避の考え方に合うものはどれですか。

答えを見る

正解: 3. 多くの場合、自分が少ない差への不満のほうが、自分が多い差より強い
惜しい選択肢もありますが、自分が多い差を嫌う人もいる、というのがこの理論の特徴です。ただし、自分が少ない差への不満のほうが強いと考えます。

日常の場面で考える

Q3. 引っ越しを手伝ってくれた友人に、後日お礼として夕食をごちそうしたくなりました。3つの形のうち、どれに当たりますか。

答えを見る

正解: 1. 互恵性
親切にされたから親切で返したい、という気持ちは互恵性です。相手の行動に応じて返す点が、見返りを考えない利他性との違いです。

レッスン8-1はここまでです

迷った問題は、その見出しの本文を読み直してから次に進みましょう。間違えた問題は復習ページに自動で入ります。

第8章 社会的選好 のレッスン一覧
  1. 8-1社会的選好
  2. 8-2最後通牒ゲームと独裁者ゲーム
  3. 8-3公平さと値上げ
  4. 8-4互恵性

講座の目次(全14章)へ

出典(4件)
  1. Fehr, E. & Schmidt, K. M. (1999) "A Theory of Fairness, Competition, and Cooperation." Quarterly Journal of Economics 114(3), 817-868
  2. Fehr, E. & Fischbacher, U. (2002) "Why Social Preferences Matter - The Impact of Non-Selfish Motives on Competition, Cooperation and Incentives." Economic Journal 112(478), C1-C33(要旨)
  3. Fehr, E. & Fischbacher, U. (2003) "The nature of human altruism." Nature 425, 785-791
  4. NobelPrize.org「Scientific Background: Richard H. Thaler: Integrating Economics with Psychology」(2017年経済学賞、4. Social Preferences)