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第8章 社会的選好 ・ レッスン8-4お返し(互恵性)とは?親切には親切で返したくなる
約5分 ・ 公開日 2026-10-06
このレッスンの問い
寄付のお願いの手紙に、絵はがきが同封されていました。あなたは寄付したくなりますか? 読む前に予想してみましょう。
読む前に、答えを少しだけ予想してみてください。当たっていなくても大丈夫です。
前のレッスンの復習(1問)
本文に入る前に、前のレッスンを思い出してみましょう。
Q1. 大雪の翌朝、店が雪かきシャベルを値上げしました。前のレッスンで学んだ、多くの人の受け止め方はどれでしたか。
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正解: 2. いつもの値段と比べて、不公平だと感じる
ここがポイントです。人は「いつもの取引」(参照取引)と比べて公平かどうかを判断します。需要が増えただけの値上げは、不公平と感じられやすいのでした。
01親切には親切で返したくなる
人は親切にされると、損をしてでも親切で返そうとします。これを正の互恵性と呼びます。
おみやげをもらうと、何かお返しをしたくなりますよね。親切には親切で、ひどい仕打ちには仕返しで応える。この傾向を互恵性と呼びます。
親切に応えるほうを正の互恵性、仕返しのほうを負の互恵性と呼びます。経済学者のフェールとゲヒターは、見知らぬ相手でも、自分が損をしても、将来の得がなくても表れる点を重く見ました。
利他性との違いもポイントです。利他性は相手が何をしても示す親切です。互恵性は、相手の行動への「お返し」として表れます。
1回きりのやりとりの実験を調べた複数の研究では、互恵的にふるまう人は40〜66%でした。一方、20〜30%の人は、まったくお返しをしませんでした。
02高めの賃金と働きぶりの「贈り物の交換」
相場より高い賃金を払うと、多くの人はよく働くことで返します。ただし、現場では効果が長続きしない例もあります。
雇う側が相場より高い賃金を贈り、働く側が求められた以上の働きで返す。この関係を贈り物の交換と呼びます。経済学者アカロフが1982年に唱えた考え方です。
フェール、キルヒシュタイガー、リードルは1993年、これを実験で確かめました。買い手が値段を決め、取引が決まった後に、売り手が品質を選びます。買い手は相場よりかなり高い値段を示し、売り手は平均すると高い品質で応えました。
実験室の外でも続くのでしょうか。図書館のデータ入力などの現場実験では、高い賃金の効果は最初の数時間だけで、その後は差が消えました。どんな条件で長続きするかは、まだはっきりしていません。
03寄付と贈り物、そして仕返し
寄付の依頼に小さな贈り物を添えると、寄付する人が増えました。逆に、ひどい扱いを受けると仕返ししたくなります。
経済学者ファルクは2001年、子どもを支援する慈善団体と組み、スイスのチューリッヒで9,846通の寄付の依頼を送りました。バングラデシュの首都ダッカで、路上で暮らす子どもの学校を支える募金です。
手紙は無作為に3つに分けました。贈り物なし、絵はがき1枚、絵はがき4枚です。寄付した人の割合は下の表のとおりで、贈り物が大きいほど増えました。
反対の向きもあります。賃金を下げた会社で従業員の盗みが増えた、という研究も紹介されています。
仕返しへの思いは、お返しへの思いより強いという見方が研究者の間で広がっています。こうした負の互恵性が集団の協力を支える話は、第9章で学びます。
| 手紙の中身 | 送った数 | 寄付した人の割合 | 贈り物なしと比べて |
|---|---|---|---|
| 贈り物なし | 3,262通 | 12% | ― |
| 絵はがき1枚と封筒 | 3,237通 | 14% | 約17%増 |
| 絵はがき4枚と封筒4枚 | 3,347通 | 21% | 約75%増 |
あなたの場合は?
最近、誰かに親切にされて「お返ししなきゃ」と感じたことはありますか? その気持ちで、何か行動を変えましたか?
答えを書く必要はありません。少し思い浮かべるだけで、記憶に残りやすくなります。
覚えるのはこの3つ
- 親切には親切で、ひどい仕打ちには仕返しで応える。これが互恵性(正の互恵性と負の互恵性)
- 高めの賃金に働きぶりで返す「贈り物の交換」は実験で確かめられたが、現場では効果が長続きしない例もある
- 寄付の依頼に絵はがきを添えると、寄付する人の割合が増え、贈り物が大きいほど増えた
TERMSこのレッスンの用語
親切にされたとき、自分が損をしても親切で返そうとする傾向。
ひどい仕打ちを受けたとき、自分が損をしても仕返ししようとする傾向。
雇う側が相場より高い賃金を贈り、働く側が求められた以上の働きで返すという関係。
LESSON 8-4 の確認
確認問題(全3問)
本文を見ずに答えてみましょう。思い出そうとすることが、いちばんの復習になります。
Q1. 互恵性と利他性の違いとして、正しいものはどれですか。
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正解: 1. 互恵性は相手の行動へのお返しとして表れ、利他性は相手が何をしても示す親切である
互恵性は「相手がどうしたか」に応じて変わるのがポイントです。将来の得がなくても、見知らぬ相手にも表れます。
Q2. 図書館のデータ入力などで、高い賃金の効果を調べた現場実験の結果はどれですか。
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正解: 2. 最初の数時間はよく働いたが、その後は差が消えた
惜しい人もいたかもしれません。実験室では確かめられた贈り物の交換も、この現場実験では効果が最初の数時間だけでした。長続きする条件はまだはっきりしていません。
Q3. 地域の募金団体が、支援先の子どもが描いた絵はがきを依頼の手紙に添えることにしました。ファルクの実験から予想できることはどれですか。
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正解: 2. 寄付する人の割合が増え、絵はがきが多いほど増えやすい
ファルクの実験では、絵はがき1枚で約17%、4枚で約75%、寄付した人の割合が増えました。贈り物にお返ししたくなる、正の互恵性の表れです。
出典(6件)
- Fehr, E. & Gächter, S. (2000) Fairness and Retaliation: The Economics of Reciprocity. Journal of Economic Perspectives 14(3), 159-181
- Fehr, E. & Gächter, S. (2000) 同論文の CESifo Working Paper No. 336 版(全文)
- Fehr, E., Kirchsteiger, G. & Riedl, A. (1993) Does Fairness Prevent Market Clearing? An Experimental Investigation. Quarterly Journal of Economics 108(2), 437-459
- Falk, A. (2007) Gift Exchange in the Field. Econometrica 75(5), 1501-1511
- Falk, A. (2004) Charitable Giving as a Gift Exchange: Evidence from a Field Experiment(IZA Discussion Paper No. 1148。Falk 2007 の元になった版、全文。実験の手順と表1の数値)
- Gneezy, U. & List, J. A. (2006) Putting Behavioral Economics to Work: Testing for Gift Exchange in Labor Markets Using Field Experiments. Econometrica 74(5)(NBER Working Paper 12063)