HOME / ゼロから学ぶ行動経済学 / 講座 / 第9章 社会的ジレンマ / 社会的ジレンマ

第9章 社会的ジレンマ ・ レッスン9-1

社会的ジレンマとは?一人の得が全員の損になる仕組み

約5分 ・ 公開日 2026-10-06

このレッスンの問い

猛暑の日に節電を頼まれました。自分の家1軒が冷房を弱めても、全体の電力不足はほとんど変わりません。あなたなら弱めますか?読む前に考えてみましょう。

読む前に、答えを少しだけ予想してみてください。当たっていなくても大丈夫です。

01社会的ジレンマを決める2つの条件

社会的ジレンマとは、一人ひとりは協力しないほうが得なのに、全員がそうすると全員が協力したときより悪くなる状況です。

心理学者のドーズは、1980年の論文でこの状況を2つの条件で定めました。1つめは、他の人がどうしても、自分は協力しないほうが得をすることです。2つめは、全員が協力しないと、全員が協力したときより全員が損をすることです。

この2つがそろった状況を、社会的ジレンマと呼びます。ここでの協力とは、みんなのために自分が少し我慢する選択です。協力しない選択は、研究では「裏切り」と呼ばれます。

ポイントは、悪い人がいなくても起きることです。一人ひとりが自分の損得を考えるだけで、全員にとって悪い結果にたどり着きます。

023人のゲームで確かめる

下の表のゲームでは、誰にとっても協力しないほうが1ドル得なのに、全員が協力しないと全員の取り分は0になります。

ドーズが紹介した3人の実験ゲームを見てみましょう。協力しない人は3ドルを受け取りますが、そのたびに3人全員が1ドルずつ罰金を払います。協力する人は、罰金なしで1ドルを受け取ります。

自分だけ協力をやめると、受け取りは2ドル増え、罰金は1ドル増えます。差し引き1ドルの得なので、他の2人がどうしても協力しないほうが得です。ところが全員がそう考えると、全員の取り分は1ドルから0になります。

ドーズは、このゲームを汚染するかどうかの選択に似ていると説明しました。得は自分が受け取り、損はみんなに広がる。この形が、ジレンマの土台です。

03身近な例と代表的な3つの型

社会的ジレンマは節電や環境の問題に広く見られ、代表的な型は囚人のジレンマ・共有地の悲劇・公共財の3つです。

冒頭の節電もその一つです。ドーズも、暖房の温度を下げて燃料を節約する例を挙げました。一人の我慢では燃料はほとんど減りませんが、全員が温度を上げれば燃料が尽きて全員が困ります。

社会学者のコロックは1998年の総説で、2人のジレンマと多人数のジレンマを分けて整理しました。2人の代表が囚人のジレンマ、多人数の代表が共有地のジレンマと公共財のジレンマです。

共有地の型は、みんなの資源から取りすぎる形です。公共財の型は、みんなのためのものに出し惜しむ形で、出さずに恩恵だけ受ける人をフリーライダーと呼びます。それぞれの仕組みは、次のレッスンから1つずつ学びます。

協力する人数協力しない人の取り分協力する人の取り分
3人(全員が協力)なし1ドル
2人2ドル0ドル
1人1ドルマイナス1ドル
0人(全員が協力しない)0ドルなし
3人で行う「テイク・サム」ゲームの取り分(Dawes 1980 の表をもとに作成。協力しない人は3ドルを受け取り、3人全員が1ドルずつ罰金を払う)

あなたの場合は?

あなたの職場や地域で、「自分一人くらいやらなくても」と思ってしまう共同の作業や約束はありますか?

答えを書く必要はありません。少し思い浮かべるだけで、記憶に残りやすくなります。

覚えるのはこの3つ

  1. 社会的ジレンマとは、一人ひとりは協力しないほうが得なのに、全員がそうすると全員が損をする状況
  2. 条件は2つ。他の人がどうしても自分は協力しないほうが得、でも全員が協力しないと全員が協力したときより悪くなる
  3. 代表的な型は3つ。2人の囚人のジレンマ、多人数の共有地の悲劇(取りすぎる)と公共財(出し惜しむ、フリーライダー)

TERMSこのレッスンの用語

社会的ジレンマSocial dilemma

一人ひとりは協力しないほうが得なのに、全員がそうすると全員が協力したときより悪くなる状況。

裏切り(非協力)Defection

社会的ジレンマで、みんなのための我慢をせず、自分の得になるほうを選ぶこと。

フリーライダーFree rider

みんなのためのものに費用を出さず、他の人が出したものの恩恵だけを受ける人。

LESSON 9-1 の確認

確認問題(全3問)

本文を見ずに答えてみましょう。思い出そうとすることが、いちばんの復習になります。

Q1. ドーズが示した社会的ジレンマの条件に含まれないものはどれですか。

答えを見る

正解: 3. 協力しない人は、いつも周りの人より大きく損をする
惜しいポイントはここです。社会的ジレンマでは、協力しないほうが自分は得をします。だからこそ協力が崩れやすいのです。

Q2. 表の3人のゲームで、他の2人が協力しているとき、あなたが協力をやめると取り分はどうなりますか。

答えを見る

正解: 1. 1ドルから2ドルに増える
受け取りが3ドルに増え、罰金が1ドル増えるので、差し引き1ドル増えます。ただし全員がやめると、全員が0ドルになります。

日常の場面で考える

Q3. 町内の側溝掃除。自分一人が休んでも水はけはほとんど変わりませんが、全員が休むと大雨のとき全員が困ります。この状況はどれに当たりますか。

答えを見る

正解: 1. 社会的ジレンマ。一人なら休むほうが得だが、全員が休むと全員が損をする
2つの条件がそろっています。みんなのための作業に出し惜しむ形なので、公共財の型に近い例です。

レッスン9-1はここまでです

迷った問題は、その見出しの本文を読み直してから次に進みましょう。間違えた問題は復習ページに自動で入ります。

第9章 社会的ジレンマ のレッスン一覧
  1. 9-1社会的ジレンマ
  2. 9-2囚人のジレンマ
  3. 9-3共有地の悲劇
  4. 9-4公共財ゲーム
  5. 9-5オストロムの設計原則

講座の目次(全14章)へ

出典(3件)
  1. Dawes, R. M. (1980). Social Dilemmas. Annual Review of Psychology, 31, 169-193(カーネギーメロン大学が公開するPDF)
  2. Kollock, P. (1998). Social Dilemmas: The Anatomy of Cooperation. Annual Review of Sociology, 24, 183-214
  3. Stanford Encyclopedia of Philosophy「The Free Rider Problem」(Garrett Cullity, 2025)