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第10章 ナッジと選択アーキテクチャ ・ レッスン10-2

選択アーキテクチャとは?選ぶ環境のデザイン

約5分 ・ 公開日 2026-10-06 ・ 更新日 2026-10-07

このレッスンの問い

会社の補助制度を使う人が少ないとき、原因は「関心がない」ことだと思いますか?それとも別の理由でしょうか。読む前に予想してみてください。

読む前に、答えを少しだけ予想してみてください。当たっていなくても大丈夫です。

前のレッスンの復習(1問)

本文に入る前に、前のレッスンを思い出してみましょう。

レッスン10-1から

Q1. 前のレッスンで学んだナッジにあたるものはどれですか。

答えを見る

正解: 1. 社員食堂で、果物を目の高さの棚に置く
ナッジは、選択肢を禁止せず、損得も大きく変えずに行動を変える工夫でした。禁止は規制、値上げは損得を変える方法なので、ナッジにはあたりません。

01選ぶ環境には、必ず誰かのデザインがある

選択肢の並べ方、情報の見せ方、手続きの手間など、選ぶときの環境のデザインを選択アーキテクチャと呼びます。

人は、何もない空間で選ぶわけではありません。メニューの順番、書類の書きやすさ、目に入る位置など、まわりの環境が選択に影響します。

2017年ノーベル経済学賞の解説は、こうした選ぶ環境のデザインを選択アーキテクチャと呼んでいます。セイラーらは、その環境を作る人を選択アーキテクトと名づけました。

食堂の献立表を作る人も、申込書の様式を決める人も、選択アーキテクトです。最初から選ばれている選択肢(デフォルト)も大事な道具ですが、次のレッスンで詳しく学びます。

02手続きを少し手伝うだけで、行動が大きく変わる

アメリカの実験では、奨学金の申請書の記入を手伝うと提出が増え、大学に通い続ける若者も増えました。

アメリカの大学の学費援助を受けるには、100問を超える申請書(FAFSA)を出す必要があります。ベッティンガーらは、税の申告を手伝う事務所で、所得の低い家庭を対象に実験しました。

ある組には、税の書類の情報を使い、10分足らずで申請書の記入を手伝いました。受け取れそうな援助額の見積もりも渡しました。親が手伝いを受けた高校3年生などでは、提出率が約16ポイント上がりました(約40%から約56%)。

さらに実験後の3年間で、2年間大学に通い終えた高校3年生の割合は、28%から36%に増えました。一方、見積もり額を伝えるだけの組では、良い変化は見られませんでした。ここがポイントで、情報より手間が壁になっていたのです。

03「中立な設計」はない

何かを先頭に並べれば、それだけで選ばれ方が変わることがあるので、影響ゼロの設計はつくれません。

選択肢を並べるとき、どれかは必ず一番上に来ます。並び順が選択に影響することを、順番効果と呼びます。

アメリカのカリフォルニア州は1975年から、州全体の選挙で投票用紙の候補者の順番をくじで決めてきました。1978〜2002年の選挙を分析した研究では、予備選挙で一番上に載ると得をしていました。主要政党の候補は1〜3ポイント、少数政党の候補は得票率が倍になることもありました。

ただし本選挙では、主要政党の候補に効果は見つかりませんでした。効果の大きさは場面で違いますが、並べる人がいる限り影響はありえます。だから設計する側が、本人のためになる並べ方を考える責任を負います。

組受けたこと申請書の提出大学への在籍
比べるための組大学進学の大切さを伝える一般的な冊子約40%(基準)基準
情報だけの組受け取れそうな援助額の見積もりと、近くの大学の学費増えなかった良い変化は見られなかった
手伝い+情報の組10分足らずで申請書の記入を手伝い、見積もりも渡す約16ポイント増えた2年間通った割合が28%から36%に
奨学金の申請書の実験の3つの組と結果(Bettinger ほか 2012、NBER 版と J-PAL の要約をもとに作成。数値は親の世帯の若者が対象)

あなたの場合は?

あなたの職場や地域で、「手続きが面倒そう」という理由だけで使われていない制度やサービスはありますか?記入を手伝う、項目を減らすなど、どこを変えれば使われそうでしょうか。

答えを書く必要はありません。少し思い浮かべるだけで、記憶に残りやすくなります。

覚えるのはこの3つ

  1. 選択アーキテクチャとは、選択肢の並べ方・情報の見せ方・手続きの手間など、選ぶときの環境のデザイン
  2. 奨学金の申請書の記入を10分足らず手伝うと提出が増え、2年間大学に通った割合も28%から36%に増えた。情報だけでは変わらなかった
  3. 何かは必ず先頭に来るので「中立な設計」はない。並び順の効果(順番効果)は場面によって大きさが違う

TERMSこのレッスンの用語

選択アーキテクトChoice architect

人が選ぶときの環境(並べ方・見せ方・手続きなど)を作る人。セイラーらの用語。

順番効果(並び順の効果)Order effect

選択肢を並べる順番によって、選ばれ方が変わること。投票用紙の候補者の順番などで研究されている。

LESSON 10-2 の確認

確認問題(全3問)

本文を見ずに答えてみましょう。思い出そうとすることが、いちばんの復習になります。

Q1. 選択アーキテクチャの説明として正しいものはどれですか。

答えを見る

正解: 1. 選択肢の並べ方・情報の見せ方・手続きの手間など、選ぶときの環境のデザイン
選択アーキテクチャは、選ぶ環境のデザイン全体を指します。禁止で選択肢を減らすのは規制です。建物という言葉にまどわされなければ大丈夫です。

Q2. 奨学金の申請書の実験(Bettinger ほか 2012)からわかったこととして正しいものはどれですか。

答えを見る

正解: 1. 受け取れそうな援助額を伝えるだけでは提出は増えず、記入の手伝いと組み合わせると大きく増えた
惜しい選択肢もありますが、情報だけの組では良い変化は見られませんでした。手伝いと情報を合わせた組では提出が約16ポイント増え、2年間通った割合も28%から36%に増えました。

日常の場面で考える

Q3. 町内会が資源ごみの回収への参加を増やしたいと考えています。選択アーキテクチャの考え方に最も近いのはどれですか。

答えを見る

正解: 1. 申込書の項目を減らし、集会所でその場で記入を手伝う
手続きの手間を減らすのは、選ぶ環境のデザインです。罰金と商品券は、どちらもお金の損得を変える方法なので、環境のデザインとは別の手段です。

レッスン10-2はここまでです

迷った問題は、その見出しの本文を読み直してから次に進みましょう。間違えた問題は復習ページに自動で入ります。

第10章 ナッジと選択アーキテクチャ のレッスン一覧
  1. 10-1ナッジとは
  2. 10-2選択アーキテクチャ
  3. 10-3デフォルトの力
  4. 10-4社会規範メッセージ
  5. 10-5ナッジの倫理とブースト

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出典(6件)
  1. Bettinger, E. P., Long, B. T., Oreopoulos, P., & Sanbonmatsu, L. (2012)「The Role of Application Assistance and Information in College Decisions: Results from the H&R Block FAFSA Experiment」The Quarterly Journal of Economics 127(3), 1205–1242(要旨: 2年間大学に通った割合 28%→36%、情報だけでは改善なし)
  2. Bettinger, E. P. ほか (2009)「The Role of Simplification and Information in College Decisions」NBER Working Paper 15361(記入の手伝いは10分未満、提出率は15.7ポイント上昇)
  3. J-PAL「The Role of Application Assistance and Information in College Decisions」研究要約(申請書は100問超、3つの組の内容、提出率 39.9%から15.7ポイント上昇)
  4. Royal Swedish Academy of Sciences「Richard H. Thaler: Integrating Economics with Psychology」(2017年 経済学賞の学術的解説 p.14、選択アーキテクチャの定義)
  5. Thaler, R. H., Sunstein, C. R., & Balz, J. P. (2010)「Choice Architecture」SSRN(選択アーキテクトの定義)
  6. Ho, D. E., & Imai, K. (2008)「Estimating Causal Effects of Ballot Order from a Randomized Natural Experiment: The California Alphabet Lottery, 1978–2002」Public Opinion Quarterly 72(2), 216–240