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第10章 ナッジと選択アーキテクチャ ・ レッスン10-1

ナッジとは?禁止もせず、損得も変えない後押し

約5分 ・ 公開日 2026-10-06 ・ 更新日 2026-10-07

このレッスンの問い

社員食堂で野菜をもっと食べてほしいとき、「揚げ物を禁止する」「サラダを安くする」「サラダを目の高さに置く」。ナッジと呼ばれるのはどれだと思いますか?

読む前に、答えを少しだけ予想してみてください。当たっていなくても大丈夫です。

01ナッジの定義は「禁止しない・損得を変えない」

ナッジとは、選択肢を禁止せず、損得もほとんど変えずに、人の行動を予測できる方向へ変える、選ぶ環境の工夫です。

nudge は英語で「ひじでそっと突く」という意味です。セイラーとサンスティーンは、2008年の本『Nudge』でこの言葉を広めました。

二人の定義では、ナッジは選択肢を何も禁止しません。経済的インセンティブ(お金の損得)も大きく変えません。それでも人の行動を、予測できる形で変える工夫です。

本にはわかりやすい例があります。果物を目の高さに置くのはナッジですが、ジャンクフードを禁止するのはナッジではありません。ナッジは命令ではなく、簡単に、ほとんど費用をかけずに避けられるものとされています。

02規制・税・補助金・情報提供との違い

規制は選択肢を禁じ、税や補助金はお金の損得を変えます。ナッジはそのどちらもしない点で区別されます。

行政が人の行動を変えたいとき、昔から使ってきたのは、法律で禁じる規制と、税や補助金で損得を変える方法です。環境省は、ナッジをこうした伝統的な手法を補う新しい手法と位置づけています。

職場の自動販売機で考えてみましょう。甘い飲み物の販売をやめるのは規制、値上げするのは税に近い方法です。水やお茶を一番手に取りやすい段に並べるだけなら、ナッジにあたります。

情報提供も、禁止や損得の変更をしません。そのため、正しい情報や他人との比較を伝えることも、ナッジの一種に数えられることがあります。ただ、定義の線引きにはあいまいさが残ると指摘されています。

03判断のくせを前提にした後押し

ナッジは、人には判断のくせがあるという前提に立ち、そのくせを逆手に取って、本人が望む選択を助けます。

第2〜7章で見たように、人はいつも全部を比べて選ぶわけではありません。目に入りやすいものや、最初に示されたものを選びがちです。ナッジは、このくせを消そうとせず、良い方向に働くよう環境を整えます。

ノーベル経済学賞の解説は、心理の知見を使う点でナッジは販売の宣伝と似ていると述べています。違うのは目的です。本人が自分で判断して良いと思える、長い目で見た幸せを高めることを目指します。

選ぶ自由は残したまま、本人のためになる方向へ導く。この考え方をリバタリアン・パターナリズムと呼びます。良いナッジの条件は10-5で、効果の大きさをめぐる議論は第13章で扱います。

方法選択肢を禁止する?お金の損得を変える?自動販売機での例ナッジにあたる?
規制する—甘い飲み物の販売をやめるあたらない
税に近い方法しない変える(高くする)甘い飲み物を値上げするあたらない
補助金に近い方法しない変える(安くする)水やお茶を値引きするあたらない
情報提供しない変えない飲み物の糖分の量を表示する含めることもある
並べ方の工夫しない変えない水やお茶を一番取りやすい段に並べるあたる
行動を変える方法の比べ方(職場の自動販売機の例。Thaler & Sunstein 2008 の定義と環境省の資料をもとに作成)

あなたの場合は?

あなたの職場や家で、禁止もお金も使わずに「つい良いほうを選べる」ようにするなら、何をどこに置きますか?

答えを書く必要はありません。少し思い浮かべるだけで、記憶に残りやすくなります。

覚えるのはこの3つ

  1. ナッジとは、選択肢を禁止せず、損得もほとんど変えずに、行動を予測できる方向へ変える選ぶ環境の工夫(セイラーとサンスティーン、2008年)
  2. 規制は選択肢を禁じ、税や補助金は損得を変える。ナッジはどちらもせず、簡単に避けられる
  3. ナッジは判断のくせを前提に、それを逆手に取って、本人が望む選択を助ける

TERMSこのレッスンの用語

ナッジNudge

選択肢を禁止せず、経済的な損得も大きく変えずに、人の行動を予測できる形で変える、選ぶ環境の工夫。

経済的インセンティブEconomic incentive

税・補助金・罰金・値引きなど、お金の損得によって人の行動を動かそうとする仕組み。

リバタリアン・パターナリズムLibertarian paternalism

選ぶ自由は残したまま、本人が自分で良いと思える方向へ行動を導こうとする考え方。

LESSON 10-1 の確認

確認問題(全3問)

本文を見ずに答えてみましょう。思い出そうとすることが、いちばんの復習になります。

Q1. セイラーとサンスティーンの定義で、ナッジの条件として正しい組み合わせはどれですか。

答えを見る

正解: 1. 選択肢を禁止せず、お金の損得も大きく変えない
ここがポイントです。ナッジは「禁止しない」と「損得を大きく変えない」の両方を満たします。損得を大きく変えるのは、税や補助金の方法です。

Q2. ノーベル経済学賞の解説によると、ナッジが販売の宣伝と違う点はどれですか。

答えを見る

正解: 2. 本人が自分で判断して良いと思える、長い目で見た幸せを高めるのが目的であること
惜しい、と感じた人もいるかもしれません。心理の知見を使う点はむしろ宣伝と同じです。違うのは、本人のためになることを目指すという目的です。

日常の場面で考える

Q3. 地域のごみの分別を進めたい自治体が考えた次の案のうち、ナッジにあたるものはどれですか。

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正解: 3. 分別用のごみ箱を、ごみ置き場の入り口の目立つ場所に並べる
罰金と補助金はお金の損得を変える方法です。置き場所の工夫は、禁止も損得の変更もせずに行動を変えようとするので、ナッジにあたります。

レッスン10-1はここまでです

迷った問題は、その見出しの本文を読み直してから次に進みましょう。間違えた問題は復習ページに自動で入ります。

第10章 ナッジと選択アーキテクチャ のレッスン一覧
  1. 10-1ナッジとは
  2. 10-2選択アーキテクチャ
  3. 10-3デフォルトの力
  4. 10-4社会規範メッセージ
  5. 10-5ナッジの倫理とブースト

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出典(4件)
  1. Royal Swedish Academy of Sciences「Richard H. Thaler: Integrating Economics with Psychology」(2017年 経済学賞の学術的解説、NobelPrize.org)
  2. Hansen, P. G. (2016)「The Definition of Nudge and Libertarian Paternalism: Does the Hand Fit the Glove?」European Journal of Risk Regulation(Thaler & Sunstein 2008 の定義の原文引用。Roskilde University 公開版)
  3. 環境省「行動科学の活用を通じた行動変容の促進に係る環境省の取組」(2017年11月15日 日本版ナッジ・ユニット連絡会議 資料2)
  4. 依田高典「ナッジの経済学入門」(2017年11月15日 日本版ナッジ・ユニット連絡会議 資料9、環境省)