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第10章 ナッジと選択アーキテクチャ ・ レッスン10-4「みんなやっています」はなぜ効く?社会規範メッセージ
約5分 ・ 公開日 2026-10-06 ・ 更新日 2026-10-07
このレッスンの問い
ホテルの浴室に「環境のためにタオルの再利用を」という札と、「ほかの客の多くが再利用しています」という札。どちらが再利用を増やしたと思いますか?読む前に予想してみましょう。
読む前に、答えを少しだけ予想してみてください。当たっていなくても大丈夫です。
前のレッスンの復習(1問)
本文に入る前に、前のレッスンを思い出してみましょう。
Q1. 臓器提供の意思表示や企業年金の研究からわかった、デフォルト(初期設定)の性質はどれでしたか。
答えを見る
正解: 1. 最初から選ばれている選択肢は、そのまま選ばれやすい
変える手間、「おすすめ」と受け取ること、変えると損に感じること(現状維持バイアス)から、初期設定のまま選ばれやすくなります。
01「みんな」には2種類ある
社会規範には、多くの人が実際にしていること(記述的規範)と、多くの人がよいと認めること(命令的規範)の2種類があります。
「多くの人が実際にしていること」と「多くの人がよいと考えること」は、別のものです。前者を記述的規範、後者を命令的規範と呼びます。チャルディーニらは1990年の論文で、この2つを分けて考えるべきだと主張しました。
彼らは病院の駐車場で、車のワイパーにちらしをはさみました。そして床をわざと散らかした時間ときれいにした時間で、ちらしを床に捨てる人の割合を比べました。
散らかった床では41%、きれいな床では11%が捨てました。ポイ捨てはいけないと知っていても、「みんな捨てている」様子に引っぱられたのです。この結果から考えると、「分別できていない人が多い」という職場の貼り紙も、逆効果になるおそれがあります。
02ホテルのタオルで確かめた実験
「ほかの客の多くがタオルを再利用しています」と伝えるだけで、環境保護を訴えるいつもの札より再利用が増えました。
ゴールドスタインらは、米国のホテルで浴室のタオル掛けに札を下げました。片方は「環境を守るためにタオルの再利用を」という、よくある呼びかけです。もう片方は「客の75%近くが再利用しています」と、記述的規範を伝えました。
再利用した客の割合は、環境の札で35.1%、「みんな」の札で44.1%でした。2つめの実験で「この部屋に泊まった客の75%が」と書くと、49.3%と最も高くなりました。
ここがポイントです。料金などの損得は何も変えず、伝え方だけで行動が変わりました。しかも、自分と状況の近い人の行動ほど、まねされやすかったのです。
03平均より良い人には逆効果になる
「平均はこれくらい」と伝えると、平均より良い人がかえって悪くなることがあり、これをブーメラン効果と呼びます。
シュルツらは2007年、米国カリフォルニア州の290世帯で実験しました。各家の電気の使用量と、近所の平均を書いた紙を玄関に届けたのです。平均より多く使っていた家は、その後使用量を減らしました。
一方、平均より少なかった家は、1日あたり0.89キロワット時ほど使用量が増えました。平均が目印になり、そこへ引き寄せられたのです。このように、狙いと逆向きに行動が動くことをブーメラン効果と呼びます。
そこで、少ない家には笑顔のマーク、多い家には悲しい顔のマークを描き添えました。すると少ない家の使用量は低いままで、逆効果は消えました。「よくできています」という命令的規範が、副作用を防いだのです。
| もともとの使用量 | 平均だけを伝えた | 平均に顔マークを添えた |
|---|---|---|
| 近所の平均より多い家 | 減った | 減った |
| 近所の平均より少ない家 | 増えた(ブーメラン効果) | 低いまま(逆効果なし) |
あなたの場合は?
あなたの職場や地域に、かえって「みんなやっていない」と伝えてしまっている貼り紙やお知らせはありませんか?
答えを書く必要はありません。少し思い浮かべるだけで、記憶に残りやすくなります。
覚えるのはこの3つ
- 社会規範は2種類。多くの人が実際にしていること(記述的規範)と、多くの人がよいと認めること(命令的規範)
- 「客の多くがタオルを再利用しています」と伝えると、環境保護を訴える札より再利用が増えた(35.1%から44.1%へ)
- 平均を伝えると、平均より良い人が悪くなることがある(ブーメラン効果)。「よくできています」の評価を添えると防げた
TERMSこのレッスンの用語
多くの人が実際にどう行動しているかについての規範。「みんながしていること」。
多くの人が、どの行動をよいと認め、どの行動をよくないと考えるかについての規範。「みんながよいと思うこと」。
行動を良くするためのメッセージが、狙いと逆向きに行動を動かしてしまうこと。
LESSON 10-4 の確認
確認問題(全3問)
本文を見ずに答えてみましょう。思い出そうとすることが、いちばんの復習になります。
Q1. 記述的規範を伝えるメッセージはどれですか。
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正解: 1. この町の8割の家庭が、ごみを分別して出しています
記述的規範は「多くの人が実際にしていること」です。お願いや回収のルールは、ほかの人の行動を伝えていません。
Q2. ホテルのタオル再利用の実験でわかったこととして、正しいものはどれですか。
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正解: 2. ほかの客の多くが再利用していると伝える札のほうが、再利用が多かった
再利用は環境の札で35.1%、「みんな」の札で44.1%でした。この実験では料金などの損得は変えていません。
Q3. 町内会で、各家庭のごみの量と町の平均を書いたお知らせを配ることにしました。平均より少ない家庭で、ごみが増える逆効果を防ぐには、どうするのがよいでしょうか。
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正解: 1. 平均より少ない家庭には「よくできています」という評価を添える
惜しい選択肢もありますが、ここがポイントです。シュルツらの実験では、平均より少ない家に笑顔のマークを添えると、使用量が増える逆効果が消えました。
出典(3件)
- Cialdini, R. B., Reno, R. R., & Kallgren, C. A. (1990). A focus theory of normative conduct: Recycling the concept of norms to reduce littering in public places. Journal of Personality and Social Psychology, 58(6), 1015-1026.
- Goldstein, N. J., Cialdini, R. B., & Griskevicius, V. (2008). A room with a viewpoint: Using social norms to motivate environmental conservation in hotels. Journal of Consumer Research, 35(3), 472-482.
- Schultz, P. W., Nolan, J. M., Cialdini, R. B., Goldstein, N. J., & Griskevicius, V. (2007). The constructive, destructive, and reconstructive power of social norms. Psychological Science, 18(5), 429-434.