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第10章 ナッジと選択アーキテクチャ ・ レッスン10-3

デフォルトの力。初期設定はなぜそのまま選ばれるのか

約5分 ・ 公開日 2026-10-06 ・ 更新日 2026-10-07

このレッスンの問い

臓器提供の意思表示で、最初から「提供する」が選ばれている場合と、選ばれていない場合。同意する人の割合はどのくらい変わると思いますか?予想してから読んでみましょう。

読む前に、答えを少しだけ予想してみてください。当たっていなくても大丈夫です。

前のレッスンの復習(1問)

本文に入る前に、前のレッスンを思い出してみましょう。

レッスン10-2から

Q1. 選択アーキテクチャについての説明として、正しいものはどれですか。

答えを見る

正解: 1. 選択肢の並べ方や手続きの手間など、選ぶときの環境のデザインのこと
選ぶときの環境のデザインです。何かを先に並べれば影響が出るので、「中立な設計」は存在しないというのがポイントでした。

01デフォルトはそのまま選ばれやすい

最初から選ばれている選択肢(デフォルト)は、何もしなければそのまま決まるため、選ばれやすくなります。

申込書で、メールマガジンを受け取る欄に最初から印が入っていることがあります。何もしなければ、そのまま受け取ることになります。このように、自分で選ばなかったときに決まる選択肢をデフォルト(初期設定)と呼びます。

決め方は大きく2つです。手続きした人だけが加わる方式をオプトイン、最初は全員が加わっていて、抜けたい人だけが手続きする方式をオプトアウトと呼びます。

職場のプリンターなら、両面印刷を初期設定にしても、片面にしたい人は設定を変えれば済みます。禁止も値上げもせずに、紙の使用を減らすことが期待できます。

02臓器提供と年金で見えた大きな差

臓器提供の意思表示でも企業年金の加入でも、初期設定を変えるだけで、選ぶ人の割合が大きく変わりました。

ジョンソンとゴールドスタインは2003年の論文で、161人にオンラインで臓器提供に同意するかを尋ねた実験を報告しました。提供しないのが初期設定だと同意は42%、提供するのが初期設定だと82%でした。初期設定なしでは79%でした。

論文の国別の比較(2003年発表)でも差ははっきりしていました。オプトインのドイツでは同意の割合が12%、オプトアウトのオーストリアでは99.98%でした。ただし後者は「抜ける手続きをしなかった人」の割合です。

アメリカのある大企業は1998年、新しく入った社員を年金の積立制度に自動加入させました(マドリアンとシェイの研究)。勤続3〜15か月で比べると、加入率は前の年に入った社員の37%に対し、自動加入の社員は86%でした。

日本では2010年7月施行の改正臓器移植法により、本人の意思が不明でも、家族の承諾があれば脳死下で提供できるようになりました。厚生労働省は、提供する・しないのどちらでも意思を表示するよう呼びかけています。

03そのまま選ばれる3つの理由

手間がかからない、「おすすめ」と受け取る、変えると損に感じる、という3つの理由が考えられています。

1つめは手間です。選び直すには調べたり書類を出したりする必要があり、何もしないほうが楽です。ただ、先の実験は1クリックで変えられたのに差が出たので、手間だけでは説明できません。

2つめに、初期設定を「決めた側のおすすめ」と受け取ることがあります。3つめは、初期設定が今の状態になることです。変えると何かを失うように感じ、そのままを選びやすくなります(第5章の現状維持バイアス)。

ただし、初期設定は良い面ばかりではありません。自動加入の社員の61%は、いつでも変えられたのに、会社が決めた積立率3%と値動きの小さい商品での運用のままでした。研究者は、惰性に加え、初期設定を会社の助言と受け取ったためと考えています。

場面オプトイン(自分で加わる)オプトアウト(最初から加わっている)
臓器提供のオンライン実験(161人)42%82%
臓器提供の国別の同意の割合ドイツ 12%オーストリア 99.98%
企業年金の加入率(勤続3〜15か月)37%(自動加入の前)86%(自動加入の後)
初期設定によって選ばれた割合の違い(Johnson & Goldstein 2003、Madrian & Shea 2001 をもとに作成。オーストリアは抜ける手続きをしなかった人の割合)

あなたの場合は?

スマホやアプリで、初期設定のまま使っているものはありますか?自分で一から選んでも、同じ設定にしたでしょうか?

答えを書く必要はありません。少し思い浮かべるだけで、記憶に残りやすくなります。

覚えるのはこの3つ

  1. デフォルト(初期設定)とは、自分で選ばなかったときに決まる選択肢で、そのまま選ばれやすい
  2. 臓器提供の同意は実験で42%と82%、企業年金の加入率は自動加入で37%から86%に。初期設定で結果が大きく変わる
  3. 理由は3つ。手間がかからない、「おすすめ」と受け取る、変えると損に感じる(現状維持バイアス)

TERMSこのレッスンの用語

オプトインOpt-in

手続きをした人だけが制度やサービスに加わる方式。何もしなければ加わらないことが初期設定になる。

オプトアウトOpt-out

最初は全員が加わっていて、抜けたい人だけが手続きをする方式。何もしなければ加わることが初期設定になる。

自動加入Automatic enrollment

本人が断らない限り、年金の積立制度などに自動で加入させる仕組み。オプトアウトの一種。

LESSON 10-3 の確認

確認問題(全3問)

本文を見ずに答えてみましょう。思い出そうとすることが、いちばんの復習になります。

Q1. ジョンソンとゴールドスタインのオンライン実験で、臓器提供への同意が最も少なかったのはどの条件ですか。

答えを見る

正解: 1. 提供しないのが初期設定の条件
提供しないのが初期設定だと42%でした。提供するのが初期設定だと82%、初期設定なしでは79%で、オプトインの条件だけが低くなりました。

Q2. 自動加入の社員の多くが、会社が決めた積立率3%のままだった理由として、研究者が考えたものはどれですか。

答えを見る

正解: 1. 惰性に加え、初期設定を会社の助言と受け取ったから
社員はいつでも設定を変えられました。それでも多くの人が変えなかったのは、惰性と「会社のおすすめ」と受け取ったためと考えられています。

日常の場面で考える

Q3. 職場で紙の使用を減らしたいと考えています。デフォルトの力を使った方法はどれですか。

答えを見る

正解: 1. 両面印刷を初期設定にし、片面も選べるようにしておく
初期設定を変えるだけで、選ぶ自由は残ります。禁止は規制、料金を取るのは損得を変える方法で、どちらもナッジとは別の手段です。

レッスン10-3はここまでです

迷った問題は、その見出しの本文を読み直してから次に進みましょう。間違えた問題は復習ページに自動で入ります。

第10章 ナッジと選択アーキテクチャ のレッスン一覧
  1. 10-1ナッジとは
  2. 10-2選択アーキテクチャ
  3. 10-3デフォルトの力
  4. 10-4社会規範メッセージ
  5. 10-5ナッジの倫理とブースト

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出典(3件)
  1. Johnson, E. J., & Goldstein, D. (2003). Do Defaults Save Lives? Science, 302(5649), 1338-1339.
  2. Madrian, B. C., & Shea, D. F. (2001). The Power of Suggestion: Inertia in 401(k) Participation and Savings Behavior. Quarterly Journal of Economics, 116(4), 1149-1187.(NBER Working Paper No. 7682 で数値を確認)
  3. 厚生労働省「臓器移植関連情報」(臓器提供の意思表示と、平成22年7月17日施行の改正臓器移植法)