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第6章 メンタル・アカウンティング(心の会計) ・ レッスン6-1心の会計とは?お金に心の中で名札を付ける
約5分 ・ 公開日 2026-10-06
このレッスンの問い
劇を見に行ったら、入口でチケットを失くしていました。もう一度同じ額を払って買いますか?現金を同じ額だけ失くした場合と比べて、予想してみましょう。
読む前に、答えを少しだけ予想してみてください。当たっていなくても大丈夫です。
01お金に名札を付ける心の仕組み
心の会計とは、お金を出どころや使いみちで心の中の「口座」に分け、別々に管理する心の働きです。
「これは食費」「これは旅行用」と、お金を分けて考えたことはありませんか。多くの人は、お金に心の中で名札を付けて管理しています。この働きをメンタル・アカウンティング(心の会計)と呼びます。
この考え方を広めたのは、経済学者のリチャード・セイラーです。1999年の論文で、使いみちだけでなく、お金の出どころにも名札が付くと整理しました。毎月の給料か臨時収入か、手元の現金か年金の積み立てか、といった区別です。
家計簿に書かなくても、頭の中だけで「今月の服はもう買った」と数えるのも、心の会計の一つです。
02失くしたのが現金か、チケットか
同じ金額を失っても、どの口座の損と感じるかで、次の行動が大きく変わります。
トベルスキーとカーネマンは1981年に、こんな質問をしました。10ドルの劇を見に行き、入口で10ドル札を失くしたと気づいたら、それでもチケットを買いますか。183人のうち88%が「買う」と答えました。
別の200人には、買ってあった10ドルのチケットを失くした場面を聞きました。もう一度買うと答えたのは46%だけです。失った金額は同じなのに、答えがここまで分かれました。
ここがポイントです。2人は、チケットを失くすと2枚目の代金が「観劇の口座」に足され、劇に20ドルかかる感じになると説明しました。現金の損は観劇と結びつかないので、影響が小さかったというわけです。
本来お金は、どこから来ても、どんな名札が付いていても同じ価値です。この性質を代替可能性と呼びます。セイラーは、心の会計はこの原則に反するからこそ、私たちの選び方に影響すると述べました。
03予算の枠は使いすぎを防ぐ味方にもなる
費目ごとに予算の枠を決めることは、使いすぎを防ぐ自制の道具にもなります。
セイラーは、お金を費目に分ける目的を2つ挙げました。使い道どうしを比べやすくすることと、自分を律する道具にすることです。会社が部署ごとの予算で支出を抑えるのと同じ仕組みです。
ヒースとソルの1996年の研究では、経営大学院(MBA)の学生の多くが、食費と娯楽費は週ごと、服は月ごとの予算を持っていました。こうした費目ごとの枠を心の予算と呼びます。
その週に50ドルでバスケットボールを観たと想像した人は、同額の駐車違反の罰金を払ったと想像した人より、劇を見ないと答えがちでした。同じ娯楽の枠が減っていたからです。
ただし枠は、行きすぎることもあります。2人は、予算が買い控えすぎの原因にもなりうると報告しました。セイラーは職場の例として、繰り越せない予算のせいで、ある部署は困り、別の部署は来年度に減らされないよう使い道を探すゆがみも挙げています。
| 場面 | 答えた人数 | 10ドル払って見る | 見ない | 心の中の計算 |
|---|---|---|---|---|
| 10ドル札を失くした | 183人 | 88% | 12% | 現金の損は観劇とは別の口座 |
| 10ドルのチケットを失くした | 200人 | 46% | 54% | 観劇の口座で20ドルかかる感じ |
あなたの場合は?
あなたが心の中で分けている「財布」はいくつありますか。その枠は、使いすぎを防ぐ役に立っていますか?
答えを書く必要はありません。少し思い浮かべるだけで、記憶に残りやすくなります。
覚えるのはこの3つ
- 心の会計とは、お金を出どころや使いみちで心の中の口座に分けて扱う働き(セイラー)
- お金は本来どこから来ても同じ価値(代替可能性)なのに、口座が違うと別物のように扱う(劇場のチケット問題)
- 予算の枠は使いすぎを防ぐ道具になるが、厳しすぎると必要な物まで控えることがある
TERMSこのレッスンの用語
お金を出どころや使いみちで心の中の口座に分け、別々に整理・評価・管理する心の働き。
お金はどこから来ても、何に使う予定でも、同じ1円は同じ価値で置き換えられるという経済学の原則。
食費・娯楽費などの費目ごとに心の中で予算の枠を決め、使った額をその枠と照らし合わせること。
LESSON 6-1 の確認
確認問題(全3問)
本文を見ずに答えてみましょう。思い出そうとすることが、いちばんの復習になります。
Q1. 心の会計(メンタル・アカウンティング)の説明として、正しいものはどれですか。
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正解: 1. お金を出どころや使いみちで、心の中の口座に分けて扱う働き
お金に心の中で名札を付けて分ける働きが心の会計です。2つめは、むしろ代替可能性どおりの合理的な扱い方です。
Q2. 劇場のチケット問題で、「もう一度払って見る」と答えた人の割合が低かったのはどちらの場面ですか。
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正解: 2. 10ドルのチケットを失くした場面
チケットを失くした場面は46%、現金を失くした場面は88%でした。失った額は同じでも、観劇の口座に損が足されると払いにくくなります。
Q3. 「娯楽費は月1万円」と決めたAさんは、月の半ばで使い切ったので、誘われた映画を断りました。この行動の説明として、最も適切なものはどれですか。
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正解: 1. 予算の枠が、使いすぎを防ぐ自制の道具として働いた
娯楽の枠を守ったので、心の予算が自制の道具として働いた例です。惜しいのは3つめで、Aさんはチケットを失くしていません。
出典(4件)
- Thaler, R. H. (1999). Mental Accounting Matters. Journal of Behavioral Decision Making, 12(3), 183-206.
- Tversky, A., & Kahneman, D. (1981). The Framing of Decisions and the Psychology of Choice. Science, 211(4481), 453-458.
- Heath, C., & Soll, J. B. (1996). Mental Budgeting and Consumer Decisions. Journal of Consumer Research, 23(1), 40-52.
- Thaler, R. H. (2008). Mental Accounting and Consumer Choice. Marketing Science, 27(1), 15-25(初出 Marketing Science, 4(3), 1985).